リーマスが使っているベッドと、その隣(が使っていたもの)にそれぞれ腰を降ろし、向かい合わせに座った。
のベッドには本人とディアミスが。
今もリーマスが布団の中にいるベッドにはジェームズとシリウスが。
はシリウスから受け取った本を開き、ざっと目を通してから、ディアがこの本持ってきたの?、と隣に話しかけた。
「ううん。図書室の見つけ難い場所にあったんだよ、それ」
「・・・何でこの世界にこんな本があるのよ・・」
「俺にも解らない。けど、俺たち七姫(セブンプリンセス)ももこんな本を他世界に置いたりしない」
「・・・・ミュータントの仕業?」
「ただの憶測でしかないけど、今のところそれぐらいしか思い当たる節がないからさ」
そうだね、と小さく呟き返して、は前にいる三人に向き直った。
「えっと、ごめん、今から話すね。先ず初めに知っておいてほしいのは、世界は一つじゃないってこと」
「・・・・・・それって、つまり・・・」
ジェームズの呟きにコクリ、と頷いて答える。
「・・異世界が、存在するってこと。それも幾つも、ね」
「じゃあさっきディアミスが使ったのは何だ?魔法・・・じゃねえよな」
「あれは魔術。"私たちの世界"の住人が生まれつき持ってる能力なの」
色んな事ができるっていう面では魔法と似てるよ、とディアミスが言葉を付け加えた。
「・・・私たちの存在の話は、大昔まで遡るの・・・」
Snow White
世界の生い立ち
昔々。そう、"世界"が生まれるよりももっと昔。
創世神は"そこ"に存在していました。
創世神は"そこ"に"空間"を創りました。
そして次に創造神を生み、その創造神は空間に"世界"を創りました。
これ即ち、世界の誕生。
創世神、創造神は共に空間・世界の均衡、秩序、摂理・・・あらゆるものを見守り、時には干渉をしてきました。
けれど、ある時、創世神は長い長い眠りについてしまわれました。
創世神が眠りにつき、創造神は寂しくなり、体の一部から天使を創りました。
後にこの天使は他の天使の中心になる者であるので、『大天使』と呼ばれます。
大天使は自分の生みの親である創造神にそれはよく懐きました。創造神が大天使の世界だったのです。
そうして次に創造神は"ヒト"を世界に創り出しました。愛する己の子、大天使のために。寂しくないように、と。
一人、また一人、と数多くのヒトが世界に生まれました。
大天使は創造神の命を受け、世界の秩序と均衡を守り始めました。
大天使は、ヒトの前に現れては、一緒に遊びました。
ある時、大天使は体の一部から七位の天使を創りました。
そして彼等は、大天使に与えられている命を手伝い始めたのです。
大天使はそんな彼等に別々の力を与えました。
雪、水、風、氷、地、雷、華。
後に自分に残った力は炎だけ。
それでも大天使は幸せでした。自分と同じ、"ヒト"ではない者たちの存在が。
七位の天使達は、力のお礼に何かを大天使にしたいと考えました。
そうして考えついたのは、大天使とともに新たな命を創り出すこと。大天使の周りに"ヒト"ではない者たちを創り出すことでした。
大天使は彼等の考えに喜びました。
そうして、創り出された者たちは数知れず。
大天使は喜び、それを見た七位の天使も幸せでした。
いつしか、大天使は創造神ではなく、七位の天使と、彼等とともに創り出した者たちと遊ぶようになりました。
しかし、その状況を創造神はお許しになりませんでした。
愛すべき我が子が、自分ではなく他の者たちと毎日を過ごしていることが、許せなくなったのです。
創造神は、大天使たちが創り出した者たちを消滅させようと考えました。
その考えを知った大天使は、創造神に、『自分の手で終わらせる』と言いました。
けれど、大天使は大好きな彼等を消滅させることなどできないと考え、彼等を人間界へと逃がしたのです。
彼等には理由も何も告げずに、ただ『追放』だと言って。
大天使の狙い通り、戻ってこない彼等を、創造神は大天使が自ら消滅させたのだと考えました。
大天使に逃がされた者達は、自分達を追放した大天使を憎みました。怒りました。悲しみました。
そうした負のエネルギーが暴走し、人間界に"空間の歪み"が発生するようになったのです。
彼等の魂は転生を繰り返し、未だに人間界で暮らしています。
彼等の生まれ変わりである者は『ミュータント』と呼ばれ、先祖の能力や記憶までも受け継いでいると言われているのです。
「・・・・・・・これが、私たちの世界で語り継がれている伝承」
「俺たちの世界なら誰でも知ってる。母親が子供に御とぎ話しをするように話すからね」
三人は唖然とした。異世界の存在もそうだが、何よりも今の話しはこの世界の始まりにも関係していた。
大天使、天使、ミュータント・・・初めて聞く単語ばかり。しかも、話しのスケールの大きさに言葉をうまく出せずにいた。
「・・・・・・・・え、と・・・もしかして・・」
ようやく、第一声を発したのはリーマスだった。
まだ頭の中を十分に整理しきれていないが、ある光景と言葉を思い出した。
「・・・・は、今の話しの中に出てきた天使?」
『私は、天使なの』
確か彼女は叫びの屋敷でそう言っていた。背中に羽もあった。
「・・・・・・うん。私は、大天使の転生後の姿」
「転生後?」
「私たちもミュータントと同じで転生するの。だから記憶も能力もちゃんとある」
こんなもの、無かったらよかったんだけど、と言うの表情はとても辛そうで。
絶えかねたシリウスは他に何か違う質問をしよう、と考えた。
「『私たちも』ってことは、もしかしてディアミスもそうなのか?」
「当たり。俺は七位の天使の一人。大天使から風の力を与えられし者。空白の姫の守人が一、アリスだ」
またもや聞きなれない言葉に三人は首を傾げた。シリウスだけは、少し違う反応のようだが。
「『空白の姫』・・・初めて会った日、俺の家のSPがお前に向かって言ってた言葉だよな?あの時はおばあちゃんがどうのって・・・」
「・・・・・・ごめん、あれ嘘なの。『空白の姫』は・・大天使である私のことなの」
「俺たち七位の天使は人間界に語り継がれているある物語の主人公達のモデルになってるんだ」
「その物語って・・?」
ジェームズのその質問に、とディアミスは顔を見合わせた。
ディアミスの話すか迷っている視線を受けて、が苦笑いをしながら続きを引き継いだ。
「白雪姫、不思議の国のアリス、美女と野獣、アラジンと魔法のランプ、人魚姫、シンデレラ、そして眠れる森の美女。ディアミスは不思議の国のアリスのモデルとなった天使の転生姿だから、アリスって呼ばれるの」
「・・・・・・え、ディアミスがアリスのモデル・・?」
少しだけ面白そうに聞き返すジェームズにシリウスがぷっ、と噴出した。
そんな二人の反応を見、ディアミスは語気を荒めて言った
「俺じゃなくて、俺の先祖がそうだったの!七位の天使は全員女だったんだよ」
たっく、これだからこの話しはしたくなかったんだ、とぶつぶつ言い続けるディアミスに、まあまあ、と言ってからは再度三人と向き直った。
「その七位の天使は人間界の童話でのプリンセスのモデルになったことから、七人の姫(セブンプリンセス)って呼ばれてるの。で、大天使は彼女達の中心となる姫だから『空白の姫』」
「何で『空白』なんだい?」
「何にも属さないからだよ。空白の姫は能力は炎に属してはいるけれど、七人の姫の力を借りれば、その姫が持つ力を一時的に使えるようになるの。で、姫達の中心人物だから、特別な呼び名を与えられたの」
肩を竦ませて言った言葉に、ディアミスが小さく反応する。が、それに気付く者はいなかった。
「空白の姫の役目は昔と変わってはないけど、空間の歪みができ始めてからは、それを塞ぐことも役目に加えられたの」
「じゃあが僕達の世界に来た理由って・・・」
「うん、空間の歪みを塞ぎに来たの」
「それって何処にあるの?」
歪みの在り処についてのリーマスの質問には、首を振った。
未だ、見つけられていない歪み。情報では、とても大きいものらしいが。それが何処にあるのかまでは未だ分かっていないのだ。
「・・・・・あのさ、もしかして・・・・俺の家のSPって、ミュータント?」
勘が良い、ととディアミスは胸中でシリウスに賞賛の声をかけた。
否、まあ少し考えれば解ることなのだが、その歳にして、しかもこんな頭が混乱するような話しを聞いた後でのその判断力。賞賛に値する。
「デイモスのこと?」
「あー・・・そんな名前だったような・・・」
「そんな名前だったって・・・自分の家の人のことでしょうが」
「使用人の名前なんていちいち覚えてたらキリねえんだよ。お袋や親父の機嫌損ねてころころ人が変わってくからな」
そうなのか。
使用人をころころ変えるなんて、さすがお金持ち。
「デイモスは『恐れ』を守護に持つミュータントだよ」
「守護に持つ・・・?」
「あ、えっとね・・・ミュータントは追放された人間界で、不思議な力を使えることから人間達に崇められたの。『ギリシャ神話』とかに出てくる神々は追放された彼等のことなの。デイモスの先祖は、人間に『恐れ』の感情を芽生えさせたと言われてるわ」
「・・・あいつがお前のこと嫌ってるっぽかったのって・・・・」
「デイモスはもう完全に覚醒してたから、私が空白の姫・・・つまり、憎むべき相手だっていうのが分かってたんだよ」
「覚醒?」
「ミュータントにも前世の記憶を思い出したり、能力が開花するには人それぞれの時間がある。生まれつき記憶を持っているやつもいれば、死ぬまで記憶が無い奴もいる。能力も同じだ。能力だけあって、記憶がない奴だっている。デイモスは完全に覚醒してるってことは、記憶も能力も十分にあるってこと」
ディアミスの説明を受けて、ジェームズはある疑問を持った。
「え、じゃあもしかして僕達ももしかしたらミュータントである可能性ってあるの?」
「うーん・・・今までの傾向で行くと、私の姿を見たら、今まで何も記憶が無かったミュータントだとしても何かしら思い出すみたい」
「の容姿?」
「そういえばデイモスも同じようなこと言ってたような・・・・」
顎に手を添えて呟くシリウスにはコクリと頷いた。
「空白の姫の特徴は、『空色の髪にワインレッドの瞳』。どんなに転生しても、これだけは変わらない。だから、ミュータントはすぐに私だと分かって、何かしら思い出すみたいなの」
「三人とも、を見たとき何か変な感じとかしなかった?」
ディアミスの問いに、三人とも首を振った。
「なら、違うな。三人ともミュータントじゃない」
「・・え、えーっと・・・ちょっと待って。僕なんか混乱してきた・・」
リーマスが自分の頭に両手を添えてうんうん唸り始めた。
当然だ。こんなスケールの大きい話しを一気にされたら自分の思考回路の許容範囲なんて容易く超える。
難しい顔をしながらも何とか理解してついてきているシリウスとジェームズが凄いくらいだ。
「えっと・・・簡単に要約すると、この世には異世界が存在して、私とディアはこことは別の世界から来たってこと」
「で、魔術が使える」
「私もディアも天使で、この世界にできた『空間の歪み』を塞ぎにきてて」
「『空間の歪み』っていうのは、に恨みをもった『ミュータント』って奴等のせいでできた」
「で、その『ミュータント』は恨みの対象である私を狙ってる」
「そういう奴等から大天使・・・通称、空白の姫を守り、姫の仕事を補佐するのが俺達七人の姫(セブンプリンセス)の仕事」
「で、私の仕事の最優先事項は・・・・・」
世界の秩序と、均衡を守ること。
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11.03.24