「・・・・・・ディアミス、僕たちが"これくらい"のことでを嫌いになると思ってるの?」
「そういう人間を沢山見てきてるこっちからすると、それが人間のする普通の反応だと思うようになるんだよ、ジェームズ。生憎と」
「は、だよ。僕のことを『友達』だって言ってくれたのは紛れもないなんだ。人間じゃなかったとしてもは僕達の友達だよ」
「・・・シリウスは?」
「・・・・・俺は・・・・
・・・俺は、に"可能性"を教えられた。初めって会ったあの日に。は俺に行く道を示してくれた奴だ。リーマスの事を怖いって思ったあいつにはムカついたけど、でもそれは違うんだろ?俺がを嫌いになる理由はどこにもない」
「・・・・・・・その言葉、信じてもいいか?」
「もちろんさ!」
ジェームズの自信たっぷりに言うその言葉を聞いたディアミスは、三人が見たことないほど優しく微笑んだ。
そしてディアミスの足元に複雑なセレスト色の魔法陣が現れ、医務室に一陣の風が吹いた。
Snow White
喜びの涙
「・・・・っ」
あまりにいきなりの事で瞑っていた目を開ける。と、そこには驚いた顔をしているシリウス、ジェームズ、リーマスといつもと変わらぬ表情でそこに立つディアミスがいた。
やはり、ディアミスの転移の術か。目を瞑る前に見たセレスト色の光。そして今自分は先ほどまでいた場所とは全く違う場所にいる。雪の中の大木の幹から、医務室の床に移動をしているのだ。
どう考えても私を対象として使った転移の術としか思えない。
それよりも問題なのは・・・
「・・・どういうこと、ディアミス・・」
「・・どういうことって、が勝手に抜け出すから心配して転移の術使っただけだけど?」
「そうじゃなくて!!何で三人の前で使ったのかってことよ!」
魔術を、何も知らない人間の目の前で使った。私たちの間での最大の禁忌(タブー)を犯した。もともと自分は後で三人の記憶を消す予定でいた。が、少しでも消す記憶を少なくしたいと思っていたのにこれでは逆効果ではないか。
それに、ディアミスは私が人の記憶を消したり、操作したりするのが嫌いなのを知っている。何故嫌いなのかも知っている。それなのに何故、三人の目の前で魔術を使ったりしたのか。
「、三人とももう知ってる」
「・・・・・・・え?」
頭から一気に冷水をかけられた感覚がした。
三人が、知ってる?魔術のことを?それは、要するに・・・
「俺たちが何者なのかも、知ってる」
「・・・・・う、そ・・・」
リーマスだけでなく、ジェームズとシリウスまでもが私の正体を知ったということ。翼を見られてしまった時点で普通ではないと思われていただろうけど、魔法か何かだと思わせることもできたのに(ああ、消すと決断していたのに私はまだ心の奥底で何か言い訳で誤魔化せると思っていたんだ)
知ってしまった。知られてしまった。拒絶される前に記憶を消そうと思っていたのに。
「・・・」
シリウスがその場からゆっくり歩き出し、こっちへ向かってきた。体がビクリと大きく跳ね上がった。
また『化け物』だと言われる。『不気味』だと言われる。また、拒絶される。
「・・・あのさ、」
「・・い、や・・・いや・・嫌・・っ。」
何も聞きたくなくて、所詮気休めと解っていても手で耳を塞いだ。
聞きたくない聞きたくない聞きたくない。
もう十分。『必要ない』って言葉だけでもう十分だよ。拒絶されたことは解った。もう近付かないから、もう関わらないから。だから、それ以上は聞きたくない。
拒絶の言葉を聞くくらいなら、今ここで三人の記憶を消してしまおう。
そう思い魔術を使おうとした。が、
「(魔法陣が、出ない・・!?)」
どうして。忘却術くらい使えるくらいに魔力は回復したと思ったのに。
「・・」
「・・・・・っ」
言われる、と思いぎゅっと目を瞑った。シリウスが床に座っている私に合わせて、しゃがんだのが気配で感じ取れた。
「ごめん」
「・・・・・・え?」
聞き、間違いだろうか。
きっとそうだ。ほら、耳も塞いでいるし、嫌だ聞きたくないって自分に暗示をかけてたから自分の都合良いような言葉が聞こえただけだ。
だって、有り得ない。シリウスが今この状況で『ごめん』なんていうのは。
「『必要ない』っての存在がって意味じゃなくて、『来る必要がない』って意味だったんだよ・・・その・・お前が、リーマスが人狼だって知って怖がってるのに無理してついて来るみたいな言い方したから・・・」
・・・・え?え?
ちょっと待って。思考がついていかない。私は今シリウスに、謝られている?さっきのは聞き間違いなんかじゃなくて、本当に謝ってた?
「でも、ジェームズに言われて気付いた。あの言い方じゃを傷つけて当たり前だって。ディアミスにも殴られたぜ。『ふざけんな』ってな」
「・・え?あの・・え?ディア?・・殴・・?え、?ジェームズで・・え?」
「お、おい?大丈夫かよ?」
え?え?だって・・・え?
そんな、嘘だ。これが本当だったら泣きたいほど嬉しい。だって、だって・・・
「シリウス、が・・・私、に・・・謝ってる・・・?」
「おい、っ?」
「・・ねえ、ディアミス。は大丈夫かな?」
「あれが大丈夫そうに見えるんだったら大丈夫だ」
「・・・リーマス、どう見える?」
「・・・・・・とてもじゃないけど、大丈夫そうに見えないんだけど」
「僕も同意見だよ」
ぐるぐるぐるぐる。
私の今の頭の中効果音を表すときっとこんな感じだ。
ちょっと待て。整理しよう、そうしよう。
私はディアミスの転移の術でここに来た。そこには驚くいてる三人といつもと変わらない表情のディアミスがいた。シリウスが近付いてきた。拒絶されると思った。だから記憶を消そうとした。そしたら、
「・・・・シリウスが、謝ってく・・れ、た?」
「え"!?ちょっ、おい、何泣いてんだよ!」
最悪の状況を想定してたのに。全く真逆の事が起こった。凄く嬉しくて、涙が溢れてきた。さっき丘で流したものとはまた別の種の。
「あーあ、シリウス泣かしちゃったねー」
「女の子泣かせるなんて男の風上にも置けないよシリウス」
「なっ!?お前等なあ!」
そんなやりとりが前から聞こえた。よかった。リーマスは元気そうだ。と、もう一人こっちに近付いてくる気配がした。
「大丈夫、?」
「う、ん・・・大丈夫」
「俺の言ったことことごとく無視してくれたね」
「う・・・ごめん、なさい・・・」
ごしごしと洋服の袖で涙を拭いながら顔をあげた。何故だかディアミスの顔を久しぶりに見たような錯覚に襲われた。きっと、この数時間で起こったことが衝撃過ぎて何日間にも渡って起きたように感じるからだ。
「さて、と。話しの続きだな」
「?、何?何のこと?」
ディアミスに立たせてもらいながら全員の顔を見渡した。ディアミスのその言葉にシリウスと、彼をからかっていたジェームズとリーマス、からかわれていたシリウスまでもが真剣な表情になった。
「俺たちの正体についての話し」
「!?・・・・でも、そういえばさっき『三人とももう知ってる』って・・・」
「今からにも話すよ。が医務室から脱走した後から今までの話しをね」
こうして、異世界の話しは始まった。
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10.12.12