「え?いない?」
「ええ、ええ!そうなのよ!どこに行ったのかしら!傷は無くともまだ安静にしてなくちゃいけないのに!」
半ば発狂気味のマダム・ポンフリーの言葉に、朝食を終えて戻ってきた四人は、ベッドに上体を起こしているリーマスの方を見た。
「・・・・気付いたら、いなくなってたんだ・・」
「ちょっと目を離してる隙にいなくなって・・・ああ、もう!とにかく校長に報告・・・」
落ち込み気味のリーマスを余所に、マダムは足早に廊下へと消えた。
「・・・・・・・・・・」
マダムが出て行った医務室には沈黙が流れた。
誰も何も言わない。否、状況を整理しているところなのかもしれない。
最初に口を開けたのはシリウスだった。
「・・・・・・俺、探してくる」
「それは僕も賛成だけど・・・でも、がどこに行ったか解るの?」
「解らねえけど・・・でも、ここでじっとしているよりは探しに行った方がマシだろっ」
「早く謝りたいって気持ちも解るけど、少し落ち着いてシリウス。ディアミス、の居場所に心当たりない?・・・・ディアミス?」
自分の問いかけに答えることなく、こちらに背を向け、外を見ているディアミス。ジェームズの、ディアミスを不思議そうに呼ぶ声にその場の全員の目がディアミスに向いた。
「ディアミス?どうかしたかい?」
「・・・・・・三人は、のことどう思う?」
外を見たまま問われた質問に疑問符が頭の上に飛ぶ。一体、その質問とがいなくなった事にどういう関係性があるのだろうか。
シリウスは早く探しに行きたいと焦る気持ちを何とか抑えながら、どういう意味だよ?、とディアミスの背中に問いかけ返した。
「もし、リーマスじゃなくてが人狼だったとしても・・・もし、が人間じゃなかったとしても、を友達だと呼ぶか?」
「当たり前だろ」
シリウスの即答に、リーマスとジェームズも肯定の返事を返す。ピーターは・・・、と独り言のようなディアミスの呟きに、ピーターも僕等と同じことを言うさ、とジェームズが返す。
どうして今、ディアミスはこんなことを聞くのか。そもそも、こんな時でなくても、この質問の意図が解らない。
「・・・・・・まあ、ピーターもグリフィンドール生だし・・・・・勇気有る者の一人だもんな」
「?、ディアミス、一体何を言って「話がある」
ジェームズの言葉を遮って、振り返ったディアミス。その目には、強い決断の色が宿っていた。
Snow White
アリスの決断
「これは・・・?」
ディアミスから本を受け取りながら、シリウスは本の表紙に目を走らせた。
「"世界と異世界"?・・・・っ、おいディアミスこれって・・・」
「一応、シリウスが見つけやすいような場所に置きなおしておいたけど・・・・見つけられてなかったってことは、相当的外れな場所を探してたんだな」
「!?、お前、俺が調べてること知って・・・!?」
「まあ、大体予想はしてたよ。図書館で何か探してるのを見た時から」
気付かれていた。自分がについてを調べていたことに。あのハロウィンの日の説明では納得していないことに。
シリウスはバツが悪そうに目を逸らした。
「別に怒ってないから安心しろよ。寧ろ俺はシリウスに『この本を見つけてほしかった』んだぜ?」
「?、どういうことだ?」
「俺は早めに知っておいてほしかったんだ。のことを。そうすれば、あまり関わりの無い内に四人がから離れていってくれるだろうと思った」
何だ?こいつは何を言ってる?の正体を知ったら俺たちがから離れていく?
当惑した顔で四人は顔を見合わせた。
「ええっと・・・要するにディアミスは僕たちをに近づけさせたくなかったってこと?」
「簡潔に言えばそうだけど、別にジャームズ達が嫌いだから近づかせたくないっていうんじゃない」
「じゃあ何でだよ?」
少し怒りの色が見えるシリウスの声を止める者はいなかった。
近づけさせたくないという事に肯定された。何故、自分達がに近づいてはいけないのか。
「俺は、のことを知った後のジェームズ達の反応が怖かった。場合によってはは傷つく・・・俺はそれが嫌だったからこの世界の誰とも深くは関わってほしくなかった」
怪訝そうな顔が三人分ディアミスに向いている。そんな三人の顔を見ながら、ディアミスは苦笑いを零し、とりあえずその本読んでみろよ、とシリウスの手にある本を指差した。
「・・・・・・多分、大丈夫だろ」
ディアミスがそう呟いたのを聞き取ったものはいなかった。
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10.12.12