朝陽は昇りきり、医務室内に眩しいくらいの光が差し込んでいる。床もベッドも壁も天井も、医務室にある大きい窓から入ってくる朝陽に照らされてよく見える。






「で、一体何があったんだ」






ディアミスとシリウスが医務室へと入って一番初めに聞いた声は『貴方達は一体何をしてきたのですか!』というマダム・ポンフリーの怒声に近い声だった。マダムは安静にベッドの背もたれに寄りかかるようにして座っているリーマスの横のベッドにを寝かせ、治療に取り掛かった。






「(・・・あんなに流血した後はあったのに傷口が塞がってるなんて・・・今のの魔力からしたら自然治癒なんてありえない筈)」






マダムがを診ている最中、気付いた。リーマスに噛まれたであろう傷口が塞がっている事に。マダムも流血のあとはあるけれど傷跡がない事に顔を顰めているのが伺えた。

殆どゼロに近い今のの魔力から考えると自己治癒能力もゼロ。けれど傷口は塞がっている。噛まれた後に傷を治してそれで力尽きたのかもしれない。そうじゃないかもしれない。

どっちにしろここまで無理をした理由は後できっちり聞きだす。が、その前にこの三人が何かを知っているなら聞きだ出すのが基本。






「・・・っ、僕が・・・を噛んじゃったから・・・っ」


「それは解ってる。それ以外で何が起こったのかが知りたい」


「・・・ちょっと待って」






リーマスのベッドの横に立っていたジェームズの言葉に、のベッドの横にいたディアミスも、一歩距離を置いて立っていたシリウスも、声の発生源の人物を見た。






「ディアミス・・・君、リーマスの事、知ってるのかい?」


「・・・そういえばそうだ。さっきは混乱してて気付けなかったけど、オレが『はリーマスに噛まれた』とか言った時もそれがどういう事なのか解ってるようだったよな」


「・・・」






言うべきか。言わざるべきか。この状況から考えてはきっとリーマスに干渉したに違いない。






もリーマスの事、気付いてた。なら、君だって気付いてても不思議ではない」


「・・・俺も、と同じで気付いてた。どうしてかはから・・・」


「・・・ってことは・・・ディアミスもと同じで・・・」


「・・・俺が、何?」






ポツリ、と呟いたシリウスの呟きに、それを聞き逃すことの無かったディアミスが不可解そうな顔をシリウスに向ける。






「お前も、と同じようにリーマスのことを心の中では化け物だとか思ってきてたのかよ。言葉では怖くないとか綺麗言並べながら」






・・・疑問符を浮かべたい。がリーマスを怖がった?そんな馬鹿な。






「あいつ・・・怯えながらリーマスが人狼、とか言ってて・・・それなのにこれからリーマスの待ち伏せしにいくオレ達についてくるなんて言いやがって・・・オレはリーマスの事を・・友達の事を怖がってる奴になんか来てほしくなかった。だから・・・」


「だから?」


「・・・"必要ない"って言っちまって・・・。でも、オレは来る必要が・・・っ」






シリウスが最後まで言い終わる前にディアミスの拳がシリウスの頬へと飛んだ。殴られた勢いでシリウスの身体は床へと倒れる。






「ふざけんな!お前のその言葉でがどれだけ傷ついたと思ってんだ!!にとってその言葉は絶対に言っちゃいけないタブーなんだよ!もう二度と言うんじゃねえ!!」


「ディ、ディアミス・・・っ」


「リーマス」






いきなり豹変したようなディアミスに驚いたリーマスがベッドから出ようとしたのを、ジェームズが腕をリーマスの前に出して止める。ジェームズ?、と目で訴えかけるリーマスにジェームズはニコリと笑って、それ相応の事をシリウスはしたんだ。でも、と言って二人の方へと視線を戻した。






「ディアミス、シリウスは言葉が足りなかっただけなんだよ」


「言葉?」


「それだけ聞くと"お前なんかこの世に必要ない"って意味に聞こえるだろ?でもそうじゃなくてシリウスは"来る必要がない"っていう意味で言ったらしいんだ」


「・・・オレは、死んでもに向かって"この世に必要ない"なんて言わねえ。が目ぇ覚ましたら今回の事は謝る」






床に手をついてるシリウスは自然と立っているディアミスを見上げる形になる。その見上げてくる視線は揺ぎ無い灰色の目。強く芯のある瞳。この瞳は変わらない。今も未来も。






「・・・そっか・・・ごめん」


「・・・いや、それだけの事をしたんだオレは」






ディアミスが差し出した手を握って立ち上がったシリウスは、でも、と言葉を続けた。







「・・・がリーマスが人狼だって事で怖がったのは許せねえ。リーマスは友達だぜ?なのに・・・」


「世の中僕達みたいな人間ばかりじゃないさ、シリウス。僕達のような人間だけだったらリーマスは今まで傷ついてこなかったと思うよ」


「・・・多分、違う」






ディアミスが呟いた事により全員の視線がディアミスに集まった。ただ一人、当の本人はベッド上で眠るの方を見ている。






「あいつはリーマスが人狼だって知ったって怖がるような事はない。多分、別の何かに怖がってる」






きっとそれはの様子が変だったのに関係している。こればっかりは本人に聞くしか知る方法はない。






「・・・ねえ、ディアミス「貴方達、騒ぐなら外でやりなさい!ここは病人のいる医務室ですよ!?」






リーマスの言葉は、の治療が終わって奥の扉に消えていったマダム・ポンフリーだった。さっきの騒ぎはマダムにも聞こえていたらしい。マダムは、貴方はまだ安静にしていなさい!、と言ってリーマスを無理やり布団の中に押し込み、貴方達は大広間にでも行って朝食を摂ってきなさい!、と言って強制的に残りの三人を医務室からしめ出した。











Snow White
気付いた頃には時既に遅し











「・・・う・・・ん・・、」






ここは、どこ?






「(・・・医務室、か・・・)」






この簡易ベッドとカーテン、この匂い、この天井。紛れもなく学校の医務室だ。






「・・・眩、し・・」






窓からの太陽の光に目を細めた。


あぁ、私はここで何をしているのだろう。何をしていたのだろう。




また、失う。






「・・あは、ははは・・・また、必要ないって・・・言われちゃった・・・」






どうして太陽はこんなに眩しいの?

どうして人間は存在するの?

どうして人は人を愛し、憎むの?


どうして私は、生きているの?






「・・・・・そんなの、知らないよ」






私の問いかけに答えてくれる人はいない。答えられる人もいないと思う。
答えられるとしたら私自身。
でも、でもね、






「今は・・答えが解らない」






正当な理由があるのに。私がこの世に生まれてきたのには正当な理由があるはずなのに。大好きな人に、たった一度必要ないと言われただけでその理由さえも信じられなくなってしまう。






「・・・・苦しい、よ・・・苦しい・・・」






助けなんて求めても無意味なのに。助けは求めちゃいけないのに。頭では解ってる。でも、心は限界。






誰 カ 、助 ケ テ。










BACK-NEXT

10.05.04