「エバンズ!とっても綺麗だよ!その服は君の為に用意されたかのようだ!」
「あら、ありがとうポッター。今すぐに私から離れてくれるかしら?」
談話室に下りてから直にそんな会話が成された。毎度毎度な光景にも最近は慣れてきたのか、またか、と言わんばかりの溜息を彼等の友人達はついた。
「ジェームズのやつ、エバンズの何所がいいんだか…てかあんな歯の浮くような台詞をよくも堂々と……」
「リリーは良い子だよ。っていうかシリウス、すっごい似合ってる。という訳で横に並ばないで」
「は?何でだよ」
「こんな容姿の良い人と一緒に並んだら比較されるでしょ…」
の隣に移動してきたシリウスから一歩離れる。のその行動に訳が解らず首を傾げるシリウス。そう、彼は似合い過ぎているのだ。黒いマントに赤いスカーフ、所々にワイルドサの漂う服装に、口元から覗く一本だけ長い歯(というよりは牙)。何処をどう見てもヴァンパイアの格好のシリウス。格好良さがいつもの倍増しだ。道行く女子生徒の殆どがシリウスを振り返って見ている。
「大丈夫。もシリウスに引けをとらないくらい可愛いから」
「リーマス、お世辞はいらないって。リーマスのは…狼男?」
「お世辞じゃないよ。うん、どうかな?」
横から話しに加わってきたリーマスの格好は、狼男。ふさふさの獣耳のカチューシャにふさふさの尻尾。そして足や手には毛のついたウォーマー。自ら狼男の衣装を選ぶなんて。抵抗はないのだろうか。
「…うん、凄く似合ってるよ!」
ふとリーマスの奥に見える男子寮へと続く階段から、ピーターが降りてくるのが見えた。顔に少しだけ特殊メイク的なものをしていた。ああ、あの格好は、
「こんばんわ、ピーター。それはフランケンシュタイン?」
「こ、こんばんわ!うん、そうなんだ。わーっ、凄く可愛いね!」
「ありがと」
そこに、リリーに振られて少しだけしょげているジェームズが戻ってきた。けれどの姿を見た瞬間、その表情は笑顔に変わった。
「可愛いね。黒猫?」
「ありがとう。ジェームズのは…ごめん、何それ」
「パンプキン大王」
「(何だ、それ)に、似合ってるね」
「ありがとう。のその耳と尻尾、本物?」
不思議そうに耳と尻尾を見ながら聞いてきたジェームズに魔法だよ、と答えてから自分達の周りに目をやる。痛い、視線が物凄く痛い。女の子達からの視線が突き刺さってる。原因は絶対にこの隣にいるヴァンパイアだ。こんな格好良い人が隣にいるのが悪い。チラリ、とシリウスの方を見れば、シリウスもこっちを見ていたのかバチリ、と目が合ってしまった。
「(わっ)」
何故か恥ずかしくておもいきり視線を逸らしてしまった。それはシリウスも同じ事。だが、同時に視線を逸らした二人はお互いの行動など見えていなかった。その二人の光景にジェームズが野次をいれようとした瞬間、
「ポッター、あんまりに近づかないでちょうだい」
第三者の声と共に、は腕を横へと引っ張られた。不意の事で少しよろめいたがなんとか持ち直す。
「エバンズ、焼き餅を焼いてくれるのかい?嬉しいなー」
「誤解しないで頂ける?貴方のような人がに近づくと馬鹿が移るからよ。、行きましょう」
リリーはの腕を引っ張ったまま談話室の入口で待つべル達のもとへ行き、そのまま談話室を出て行った。
Snow White
アリスの訪問
風が思い出させる。そうだ、忘れていた。今日は特別な日。何かが起こる、そんな日。今日は運命の日。
「…ごめん、先に行ってて」
「?どうしたの?」
「うん、ちょっとね、忘れ物」
不思議そうに問い掛けてきたベルに作り笑いを見せて、三人の返事を聞かずに元来た道を足早に戻った。そしてそのまま中庭を通り、ホグワーツにある一番高い丘へと向かう。
大きな大木が一本。空には綺麗な月。そして下の方には空を映した黒い湖。は月を仰ぎながらポツリと呟いた。
「…絶対に、死なせたりなんかしない」
そう、今日は彼等の命日。未来の世界で彼等はこの日に命を落とした。未来の世界に居た時はこんなセンチメンタルではなかったのに。この時代に来て、彼等と関わってしまった事が原因か。
泣くな。なんの為に自分はこの世界に来たんだ。あの残酷な未来を変えるためだろう。泣いてしまったらあの未来を認めてしまう様な気がする。運命という敵に負けてしまう様な気がする。
「こんなところに居たんだ」
サクッ、と草を踏み締める音がした後にそう声を掛けられた。その声に聞き覚えがあり勢いよく振り返る。薄い水色の短髪に紺色の瞳の、とさほど歳は変わらない様に見える少年。少年はニッコリと頬笑みながらの方へと歩いてくる。
一方のはと言うと驚きに目を見開き指を少年に向けて叫んだ。
「ディアミス!?」
「久しぶり、でもないか」
「え、ちょ、何で此処にいるの?」
「明日から俺もホグワーツ生だから」
ディアミスの答えに更に驚いた。
「明日からホグワーツ生!?」
「そ。レンの計らいでね。だけじゃ歪みを修正できそうにないからって」
「えー、そんな事ないんだけどなー…」
「歪みのある世界の中で一番此処が歪みが大きいし、しかも見つけ難い感じなんだってさ。尚且つ、は他の目的もあるんでしょ?」
「他の目的って…ディア、知ってるの?」
その問い掛けにディアミスは心外だ、とでも言う風にわざとらし溜息をついた。
「、俺はと一緒に"あの世界"へ行ったんだ。解らない訳ないだろ?」
「…そう、だね」
「それに、愛しのの事なら何でもお見通しだよ」
ニコッと笑って言ったディアミスのお陰で落ち込んでいた気持ちが少し楽になった気がした。ディアミスの笑顔につられて微笑んだ後、いつもの調子で軽くあしらう。
「あー、はいはい。いつも愛の言葉ありがとー」
「、棒読み…」
ショックだ−、とわざとらしく泣き真似をするディアミスにクスクスと笑う。そしてふと思い出した様に聞いた。
「そういえばディア、さっき気配消して近付いてきた?」
「ああ、まあ少しだけだけど。それでも気付かないって事はその制御装置かなり厄介だな。着けてこなくて正解」
「………は?」
の桃色のひし形のペンダント型制御装置を見ながら頭の後ろで手を組みそう言ったディアミスの言葉に、思わず変な聞き返し方をしてしまった。何だって?制御装置を着けてきてない?
「………ディア、貴方の制御装置はいずこ?」
「着けてない」
「何で」
「レンがもしもの時の為にって…って、こらこら。その後ろから出てる黒いオーラは仕舞って仕舞って。制御装置は俺の考えじゃないから」
少し冷や汗をかきながらの怒りを沈めるディアミス。自分はこんな厄介な物を着けているというのに何故ディアミスは着けてないんだ。否、まあ解っているんだ。自分はこれを着けなければ直にミュータントに居場所が解ってしまう。この制御装置は、空白の姫の持つ特別なオーラを隠す役割をもしてるのだ。
「うー、何で私だけこんな厄介な物…」
「まあまあ、何かあった時は俺が守るって」
「いや、うん、まあ嬉しいんだけどね」
「何?は俺じゃ不満?」
「いや、そういう訳じゃないけど…ってディア、何この手」
ちゃっかりとディアミスの手はの腰へと。その手を軽くあしらおうとした直後、ガサッと近くの茂みが音を立てた。瞬時に音のした方へと視線をやり、誰、と殺気を込めて言う。その茂みから出てきたのは、
「…シリウス……」
ヴァンパイアの姿をしたシリウス・ブラックだった。
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08.08.04 修正完了