「あ、ねぇ。あれってじゃない?」
大広間へ行く途中、リーマスが中庭の方を指差して言った。確かにあの姿はだ。空色の髪に猫耳を生やして、後ろには黒い猫の尻尾。一体何処に行くんだ?
「今からパーティーが始まるのに…何所に行くんだろう…」
「ピーター、にも色々あるんだよ…」
気の無い返事をジェームズはオレの隣からピーターに返した。たっく、いつまでエバンズのこと根に持って落ち込んでる気だよ。というかこいつ本気で自分が毛嫌いされてるのか解ってないのか?
「ジェームズ、いい加減元に戻れって。エバンズにフられるのなんて何時ものことだろーが」
「…はー、シリウス君はいいよねー…」
っておい、何だその溜息は。
溜息をつきたいのはこっちだっての。そもそも俺の何がいいんだか。
「意味解んねーよ。おら、さっさと行くぞ」
「ちょ、ちょっと待ってシリウス!」
俺の後ろからのピーターの制止の声。
「あ?どうしたんだよピーター」
「あ、あのさ…何か…の様子変だった気がしない?」
「そうか?」
俺達三人の視線を全て浴びたからか、何処か言い難そうにそう言った。どう言っていいか言葉が見つからない、と言った様子だ。
変、だったか?否、俺の位置からじゃ顔は見えなかったから、様子が変だったかは解らない。
「ボク、見ちゃったんだ…の横顔…。何か、凄く悲しそうだった…」
「何か、あったのかな?」
リーマスが顎に手を添えて考えている前でオレとジェームズは顔を見合わせた。互いに心当たりはない、と目で語った。
「さっきまで普通だったし…心配だから後つけてみようか」
「えぇ!?で、でもそれって何か悪い気が…」
ジェームズの突拍子もない言葉にピーターは驚き少し慌てた。俺はジェームズの意見に賛成だ。
「が心配じゃないのかい?」
「もしが普通にしてれば直にでもやめるさ。行くぜ、ジェームズ、リーマス、ピーター」
俺は一番初めに中庭に足を踏み入れた。
Snow White
小人と姫と王子様と
暫くしてホグワーツにある一番高い丘に着いた。下の方には大イカの泳ぐ湖。上には漆黒の空に輝く月と星。
「あそこに隠れよう」
ジェームズの小声の提案で、立ち止まったから少し離れた茂みに隠れて様子を伺う事にした。ピーターの言った通り、のやつ何か変だ。上を仰いで何を見てるのか。月や星を通り越してもっと先のものを見ている気がする。
風が吹いた。空を仰ぐの髪や服が揺れる。それは俺達も同じこと。オレやジェームズは自分の来ているマントが風に煽られて音が出ないように軽く押さえた。
「…絶対に、死なせたりなんかしない」
死なせない?一体誰を。
「…死なせないって、誰か病気にでもかかってるのかな?」
「さあ、僕にもさっぱりだよ」
ジェームズとピーターが小声で話す横で俺は黙って次に言うの言葉を聞いていた。けど次に聞こえてきたのはの声ではなかった。
「こんなところに居たんだ」
あいつ、何時の間に!?近付いてくる気配なんか全然感じなかった。それはジェームズ達も同じだった様で。隠れながらもいきなり登場した水色の髪の少年を凝視していると一瞬バチッと目があった、気がした。あいつ俺達の事、気付いてる?
「ディアミス!?」
「久しぶり、でもないか」
「え、ちょ、何で此処にいるの?」
「明日から俺もホグワーツ生だから」
水色髪は数メートル離れてるの方へと着々と近付いていってる。あいつ等の話し様からして知り合い、だよな。っていうかあの水色髪は明日からホグワーツ生?転入生か。
「明日からホグワーツ生!?」
「そ。レンの計らいでね。だけじゃ歪みを修正できそうにないからって」
「えー、そんな事ないんだけどなー…」
「歪みのある世界の中で一番此処が歪みが大きいし、しかも見つけ難い感じなんだってさ。尚且つ、は他の目的もあるんでしょ?」
「他の目的って…ディア、知ってるの?」
…ちょっと待て。今俺達の目の前でされてる会話は何だ?何なんだよこの会話。普通じゃねえよな、これ。
「ねぇ、シリウス……この会話…」
「ジェームズ、『歪みのある世界』なんて会話に出てくるか、普通?」
「"普通"は出てこないと思う」
ジェームズお俺と同じ考えだ。リーマスとピーターもきっと同じ考えの筈。何だよ、『歪みのある世界』って。それにの目的ってやつも気になる。
「、俺はと一緒に"あの世界"へ行ったんだ。解らない訳ないだろ?」
「…そう、だね」
『あの世界』?国、ではないよな。世界って言ってんだから。まるで異世界でもある様な口振りだ。
「それに、愛しのの事なら何でもお見通しだよ」
……は!?何だって?『愛しの?』だあ!?
何言ってんだあいつ!って、おい!何でそこで否定しないで微笑んでんだよ!
「シ、シリウス…落ち着いて!今出て行ったらつけてきたのがバレるだろ!」
ジェームズが今にも飛び出しそうになっている俺を押し止めながら言った。
そうだ、そうだ。落ち着け。何変に動揺してんだ。
「あー、はいはい。いつも愛の言葉ありがとー」
「、棒読み…」
は言ってきた相手を軽くあしらった。よし、あの様子からしてはあいつの言葉を間に受けてねえ。
………。
って何が『よし』なんだ俺ぇぇぇぇ!!
自分で自分が解らねえ!
「……」
こらこらこら。
ジェームズ、そんな哀れんだ目で俺を見るな。少なくとも俺の頭はお前の頭よりは正常にできてる。
っていうか俺、今思いっきり顔に出てたのかよ。
「そういえばディア、さっき気配消して近付いてきた?」
「ああ、まあ少しだけだけど。それでも気付かないって事はその制御装置かなり厄介だな。着けてこなくて正解」
「…は?」
また耳慣れない言葉だ。制御装置?
「……ディア、貴方の制御装置はいずこ?」
「着けてない」
「何で」
「レンがもしもの時の為にって…って、こらこら。その後ろから出てる黒いオーラは仕舞って仕舞って。制御装置は俺の考えじゃないから」
……。
怖。
「ひ…っ」
「…は怒らせない方がよさそうだね」
「…うん。僕は今此処で肝に銘じたよ」
ピーターはあまりの怖さに顔を怯えさせ、リーマスの発言にジェームズが肯定した。あいつ、キレるとヤバイ奴だったのか。
「うー、何で私だけこんな厄介な物…」
「まあまあ、何かあった時は俺が守るって」
…今何かムカついた。何に?まあ、いい。取りあえず落ち着け、俺。此処で出てったらまずいだろ。
冷静になれ冷静に…。
「いや、うん、まあ嬉しいんだけどね」
冷静に、冷静に…。
「何?は俺じゃ不満?」
「いや、そういう訳じゃないけど…ってディア、何この手」
れいせ…
「…い、になんかになれるかー!!何あいつの腰に手なんか回してんだよ!」
「ちょ、シリウス落ち着いて!」
ジェームズが再度立ち上がろうとする俺を必死で押さえた。
ええい!バレてもかまうもんか!
と、その時。
「誰」
一瞬にしてその場の空気が凍りついた気がした。瞬時に理解した。殺気が俺達に向けられてる。このまま隠れてたら間違いなく攻撃される。俺の中の何かが俺にそう伝えてる気がした。
「…シリウス……」
俺は緩んだジェームズの腕を難なく抜け出し、茂みから体を出していた。
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08.08.08 修正完了