空は快晴。風は秋の訪れを告げている。そんな日の今日最期の授業は飛行術だ。これもまたしてもスリザリンとの合同授業だった。






で、お前はあんな奴と知り合いなのかよ」


「違うよ。ほら、彼は色々と噂されてるでしょ?だから知ってただけだよ」


「でもはスニベリーの事をファーストネームで呼んでただろ?」


「あ、あれは親しみを込め
「何であんな奴に親しみを込めるんだよ」






シリウス、ナイスなツッコミだけど今はいらない。まあ自分でも今の言い訳はどうかと思ったけどさ。


ふ、と下を見ると、箒にまだ慣れていない生徒が先生についてもらい飛び方をレクチャーしてもらっていた。この授業は全員が箒に慣れるまでは校庭内であれば自由に飛んでいいという先生の言葉がまだ有効だ。故に、箒になれてしまった三人はこうして自由に空中で集まり談笑が出来るという訳なのだ。






「(あれは、セブルス?)」






先生についてもらいレクチャーを受ける生徒の中にはスネイプも居た。そういえば彼は飛行術が苦手だったっけ。






「おい、聞いてるか?」


「…え?あ、いや、親しみを込めるのではですねー、何となく、かなあ?」


「何となくって…お前なー…」


「まぁまぁ、シリウス君。焼きもちを焼くのはいいがの言い分も聞いてあげなきゃね」


「なっ!?ジェームズ!」


「でもね、。僕もあいつにはあんまり関わってほしくない」






そんなこんなで自由時間の今、は二人から昼食の時の事について問い詰められていた。シリウスをからかう事も忘れずにジェームズはやんわりとに言う。






「あいつは一年生のわりには色んな呪いを知ってるみたいだからね。にもしもの事があったら大変だ」


「でも、ジェームズ。私の魔法の腕は知ってるでしょ?」


「勿論。には何個か便利そうな魔法を教えてもらってるしね。が僕達の先生でもある」






そう、ジェームズ達には入学初日の清めの呪文を見られて以来、毎日の様に魔法を教えてくれ、と頼み込まれた。待っていれば授業で教わるのだから待てばいいじゃないか、と告げたところ二人からは待ちきれない、とういう返答が。仕方なく初級者向けの呪文を今日までに何個か彼等には伝授していた。






「だったら…」


「でも一応、念の為」


「…でも、」


「…ジェ〜ム〜ズ〜!!」






ニコニコと笑顔で説得しようとしているジェームズに対して、シリウスは鬼の様な形相で其処に居た。その視線の先には二人の手。さり気無くジェームズの手はの手を握っていた。






「今すぐその手を離せ!」


「えぇー、別にいいじゃないかー。減るもんでもないし」


「そういう問題じゃねえ!!」






ぶーぶーと反抗するジェームズの手をシリウスは容赦なくの手からべりっと引き剥がした。あれは絶対にシリウスをからかって遊んでるな。

ぎゃいぎゃいと言い合い(一方的にシリウスが吠えてる様に見える)を始めた二人から視線を外し、周りを見渡した。






「あ、二人ともあそこに居たんだ」






視線の先にはリリーとリーマス。ふっと二人と目があったので手を振ってみると、二人も手を振って返してくれた。そして二人の下の方、つまり地上で他の生徒からは少しだけ離れて、一人で練習をしているピーターを発見した。

授業の始めにジェームズとシリウスが練習に付き合うと言ったのをピーターが断ったのは知いる。教授に教えてもらうから大丈夫だと言っていた。その教授は今は他の生徒のレクチャーで手一杯の様だった。






「う〜ん…私教えに行こうかな…」


「何を教えに行くの?」


「あ、リリー、リーマス」






悩んでいるに声を掛けたのはリリーだった。その横にはリーマスも。いつの間にか二人はの近くまで移動してきていた。気付けばジェームズとシリウスは高度を下げて自分達から大分離れた所まで行っていた。あの様子ではふざけたジェームズをシリウスが追いかけているのだろう。二人が離れた事により、リリーが自分の方まで来たのだと推測できた。


と、その時。






「きゃあああっ」


「!?」






地上の方から女子生徒の悲鳴が聞こえてきた。それに反応して振り返るのと同時に、三人の間を何かがもの凄い勢いで通り過ぎて行った。一瞬バランスを崩しそうになったが、なんとか持ち直し、通り過ぎて行ったものを目で追う。






「あれって…ピーター!?」






箒に跨ったままピーターは凄い速さで急上昇していた。がピーター!、と叫ぶのとピーターが箒から落ちるのはほぼ同時だった。様々な悲鳴が飛び交う中、彼を助けようと箒の向きを変えようとした時だった。またしても、今度は三人の両脇を凄い速さで何かが通り過ぎた。






「シリウス!?ジェームズ!?」






それは自分達から大分離れた所にいた二人だった。シリウス達はそのままの速さでピーターのもとまで行き、見事ピ−ターを受け止めた。二人に受け止められたピーターはぐったりとしていて気を失っている様だった。






「まぁまぁ!よくやりました二人とも。さぁ、今日の授業は此処まで。各自箒を片付けて戻りなさい。彼は私が医務室まで運びます」






そう言って教授はピーターを連れて校庭を去っていった。周りからは心配の声が主だったが、時折笑い声の様なものも聞こえたが、はそれに耳も貸さずに、医務室へと走った。











Snow White
助けが必要な小人











バタン、と勢いよく医務室の扉を開いたのに対して、たった今医務室を出ようとしていた教授は驚いた様子の後に、にっこりと微笑んで大丈夫ですよ、と言い出て行った。出て行く教授の背中から、医務室内に視線を戻すと幾つかあるベッドの内の一つの前にマダム・ポンフリーが立っているのが見えた。






「マダム、あの、ピーターは…?」


「この子なら大丈夫ですよ。気を失っているだけですからね。直に目を覚ますでしょう」


「そうですか…」






マダムのその言葉にほっと胸を撫で下ろした。


怖かった。彼が死んでしまったんじゃないかって。未来の世界ではあんなに彼を憎んでいたのに。ジェームズ達を殺して、しかもシリウスをアズカバンへ送った元凶となった人物。死ぬ程憎んでた。彼の所為でハリーは苦しい思いをしたし、リーマスだって一人になってしまった。


でも、この世界にきてその見方は変わった。この世界のピーターは未来の世界とは全く違ってたから。怖がりなところは変わってなかったかけれど、この時代のピーターは純粋で皆には迷惑を掛けたくないっていう気持ちを持っていた。今回の虐めの件だってその気持ちが影響していたから自分達には何も言わなかったんだと思う。






「(…私もつくづく、情に流され易いな)」






彼を守りたいと思ったのは、きっと一時の気の迷いなんかじゃない。






「ピーター!」






バタン、と先程と同じ様に大きな音をたてて開いた扉に加えそれと同時に発せられた大きな声に、マダム・ポンフリーは少し眉を潜めた。自分の時もこんな感じだったのかというどうでもいい事を頭の片隅で考えながら入口の方へと視線を移す。其処にいたのはシリウスとジェームズ、それにリリーとリーマスだった。シリウスとジェームズ、リリーは解るが、リーマスが来てくれたのには驚いた。人との余計な干渉は避けようとしていたリーマスが自らピーターの身を案じ来てくれた。






、ピーターは!?」


「大丈夫だよ、ジェームズ。気を失ってるだけで直に目を覚ますだろうって」


「良かった…」


「ったく、驚かせやがって」


「…でも、どうして急に箒が暴走したのかしら?今までこんな事一度も…」


「スリザリンの奴等だ」






いつの間にか自分達だけとなっていた医務室がシリウスのその言葉に静まった。






「あいつ等、ピーターの方見ながら笑ってやがったんだ。きっと何か授業前に箒に細工してやがったんだ」


「僕達がそれに気付いてピーターの方へ行こうとした瞬間に箒が暴走したんだ」






そういいながらジェームズは何かをベッドの横にある小さなテーブルに置いた。






「ジェームズ、それは?」


「ピーターの落し物だよ」





銀の細い鎖の中央に、ダイヤが埋め込まれている十字架が通っていた。見たところ首飾りらしい。そういえばピーターはよくこれを大事そうに握っていたような気がする。






「……ねえ、ジェームズ、シリウス、リーマス」






はベドに横たわるピーターから視線を上げ、三人の方を見た。呼ばれた事により、三人もピーターからに視線を移す。






「…気付いてた?最近、ピーターが頻繁に怪我を増やしてる事」


「うん。でも、聞いても『何でもない』を突き通すんだ」






リーマスが少しだけ寂しそうに言った。






「それに傷だけじゃないのも知ってる。教科書も変にボロボロだし、時々ローブを汚して帰ってくるし…」


「…虐め、られてるんだよね…」






再度視線をピーターに戻すリーマスに続いてもピーターに視線を戻した。と、今度はリリーが少し声を荒げて言った。その瞳には少なからず怒りの色が見える。






「そこまで分かってて、どうして何もしてあげないのよ!」


「本人が何でもないって言ってる以上は仕方がないと思うんだ」


「ポッター!あなたそれでも彼の友達なの!?」


「でも、だからこそ、ここ最近スリザリンへのちょっとした悪戯が増えたんだよね?セブルスのは別として」


「お前、気付いてたのか?」


「まぁね。私の周りに悪戯大好きな二人組みがいたからね」






脳裏に赤毛の双子を思い浮かべながらそう言った。気付いていた。この頃周りに気付かれないように小さな悪戯をピーターを虐めてそうなグループのスリザリン生に向かってやっていた事。四年間もあの双子と一緒にいたら悪戯を見破る目だって養われるってものだ。






「ピーターの事だから僕達に迷惑は掛けられないって思ってるんだろうね」


「たっく。別にそんな心配いらねーのによ」






シリウスが頭の後ろで手を組みながら言う。と、その時。少し身じろぎをしてピーターが目を覚ました。













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08.08.02 修正完了