新秋。新入生も学校生活にも大分慣れ始めていた。リリーと昼食を食べていた所へジェームズが鞄を持ちながら近付いてきた。
「あ、ジェームズ」
「やあ、。ピーターを知らないかい?」
「ピーター?授業が終わってからは見てないけど?」
「何処に行っちゃったんだろう?」
ジェームズが一人。何か珍しい。いつもは誰かとつるんでいる事が多い彼が。リーマスの行方は知っている。さっき図書館で見かけたから。けれどピーターとシリウスは何処に?
「シリウスは?」
「ああ、シリウスなら今は恒例の"お呼び出し"さ」
「ああ…」
またか。入学時からよくもまあ、そんなに続くものだ。別にシリウスが何処の寮に入ったかなんていうのはスリザリンのお坊ちゃまお嬢様には関係が無いじゃないか。否、家の体裁的には関係があるのか。
入学して次の日から今日までシリウスを呼び出すスリザリン生が後を絶たない。その内容は全員が全員グリフィンドールなんかに入るなんてどうかしている、というもの。今からでもスリザリンへ、等というのは耳にタコだとシリウスがブツブツ言っていた。
「やあ、エバンズ。午後の授業へは一緒に行かないかい?」
「こんにちは。ポッター。気分を害すから早く私の前から去って下さらない?」
そしてこの二人も相も変わらずこの調子。ジェームズのこの軽はずみな言動がいけないのか。リリーは初めてジェームズと口を交わしたその日からずっと彼を毛嫌いしていた。
…こんなんでハリーは生まれてくるのだろうか。
「あ、シリウス。お疲れ」
「…たっく、あいつ等揃いも揃って同じ事何回も聞いてきやがって…。いい加減学習しろっての」
「全く同感だね」
「ポッター、どさくさに紛れてこの手は何かしら?」
顔は至って真面目。けれど手がリリーの肩を抱いていた。冷めた目でリリーはジェームズの手を抓って自分の肩から離した。
全く、そういうナンパ男もどきな事をしているからリリーに相手にもされないって事、学習しないのかな。
「ポッター、それにブラックも。私は今貴方達に猛烈に頭にきてるの」
「シリウス!君のせいでエバンズがご立腹じゃないか!」
「俺だけじゃねえだろ!」
「一体何に怒ってるの、リリー?」
漫才コンビを他所にはツンとして言ったリリーになるべく優しく声を掛ける。そうか、昼食の間何処か不機嫌だと思っていたら、原因は彼等か。
「虐めをするなんて、最低よ」
「虐め?…もしかして二人ともセブルスを標的にしてたんじゃ…」
「セブルス?もしかしなくても君、スニベリーと仲が良いの?」
ジェームズとシリウスの顔が少し険しくなった気がした時には時既に遅し。しまった、と胸中で呟き、次の瞬間にはどうやって誤魔化そうという言い訳が頭の中を回った。
確かにセブルス・スネイプとは仲が良い、と言えるだろう。勿論それは未来の彼との間の話だし、それを言えば確実に否定の言葉を喰らうだろう。けれど、自惚れかもしれないが自分は未来の彼と結構親しい仲になった。自分が本当は彼等より年上で、異世界の人間、しかも特殊な魔術というものが使えるなどという秘密も知っている。私が自分自身で話したのだから。勿論学校ではスネイプ先生と呼んでいたが、生徒がいない時(ハリー達は除く)などはセブルス、とファーストネームで呼んでいた。それが今となって仇となるとは。
「あ…私、先に教室に行ってるね!」
「あ、おい、!」
結局良い言い訳が思い浮かばなかったので、此処は逃げるが勝ち、と荷物を持って大急ぎで大広間を出た。廊下に出た時に、一人リリーを置いてきてしまった事を胸中で謝った。
Snow White
泣きんぼの苦痛な日々
「?、ピーター?」
次の授業の教室へ向かう途中、は隅の教室からトボトボと俯きながら出てきたピーターを見つけた。
変だ。あそこの教室は使われていない空き教室。そんな所で一体何を?
「ピーター?」
「っ…?」
「どうかしたの?」
「ぇ…何が?」
ピーターは今直にでもここから逃げ出してしまいそうな程怯えていた。声も震えているし身体も微かだが震えている。それは寒さとかじゃないのは顔で解る。一体何に怯えてるのか。
「あそこの教室、今は使われてないはずなのに…」
「う…ううん、何でもない、よ」
そう言って更に俯いてしまったピーター。様子がおかしいのは火を見るより明らかだった。それに態度の他にもおかしな点は沢山ある。彼のローブはあちこちが埃で汚れているし、教科書だって一度水に濡れたかの様にヨレヨレだ。ピーター自身の身体にも時折だが、普段はローブ等で隠されて見えない部分に痣が見える事がある。
それに付け加えピーターのこの態度。これではまるで――、
「もしかして、ピーター…」
「あ…あの、ボク…もう行くねっ」
そう言ってピーターは俯き加減のまま走り去ってしまった。
気付かない訳がない。今ピーター私の目を一度も見なかった。
「、一体どうしたの?行き成り走って行くから心配したのよ?」
「ごめんねリリー。ちょっと、ね」
「おかげで、憂鬱な昼食となったわ」
「う…ホント、ごめんなさい…」
午後一番の授業は魔法薬学の為、リリーとは二人で後ろの方の席へと座り、課題である物を作っていた。ヘビの牙を砕きながらしゅんっと項垂れるを見てリリーはクスクスと笑い、冗談よ。全然怒ってなんかないわ、と優しく言った。だが、に怒ってはなくとも、やはり好いていない者達と一緒に残りの昼食を食べなければいけなかったのは憂鬱だったらしい。それを聞いたは乾いた笑みしか返せなかった。
「あ、そうだ。ねえ、リリー」
「なぁに?」
「最近さ、ピーター怪我が増えたと思わない…?」
「そういえば…そうね…」
リリーはチラリ、とジェームズ達から離れて、隅の方でぽつんと座っているピーターを見る。たった今何かの手順か材料を間違えたのかピーターの鍋から小さな爆発が起こっていた。それに対しておろおろとするピーターを見ながらリリーは言葉を続ける。
「でもそれって授業で出来た傷じゃないかしら?今みたいな時に」
「…それにね、」
言葉を切ったを不審に思い、リリーはピーターから視線をに戻した。
「教科書とかも変にボロボロだったし、普段はローブで見えない所に痣とかが集中してあったの」
「……」
再度ピーターを見てから、ふと視線をずらすと合同授業で一緒のスリザリン生の何人かが、ピーターの方を見て笑っているのが見えた。内一人の手の中には今回は使わないとスラグホーンが言っていたヘビの腎臓。それを見て二人は眉を潜めた。間違いない。さっきの小規模な爆発はあいつらの所為だ。
「…まさかとは思うけど…」
「…やっぱり、リリーもそう思う?」
「あんなの、あからさまじゃない!」
そう言ってリリーがスリザリン生の所まで行こうと立ち上がった瞬間、ヘビの腎臓を片手に持って笑っていたスリザリン生の鍋がピーターの時よりも大きな音をたてて爆発した。周りにいた共犯と思われるスリザリン生を含め、全員が煤で顔も制服も真っ黒になっていた。騒ぎ立てるそのスリザリン生達の間から、前の方に座っていたシリウスとジェームズが忍び笑いをしているのが見える。
「(ナイス、二人とも!)」
は内心でガッツポーズをし、いい気味だ、と言わんばかりの顔で慌てふためくスリザリン生を見ていた。そして、そう思っていたのはだけではないようで。
「何が起こったのか解らないけど、いい気味よね」
「ホントにね」
リリーにはシリウス達が見えていなかったのか。これじゃ、ジェームズにとって幸か不幸か解らない。もしかしたら、これでジェームズの好感度が上がるかもしれないし、下がるかもしれない。下がる事を考えると見えなくて正解なのだけれど、
「(その反対って事もあるからなー)」
つまりは、リリーの中でのジェームズの好感度が上がるという可能性もある訳で。
「(まあ、二人が仲良くなる時間はこれから沢山あるしね)」
そう。少なくとも後六年間は彼等は共に過ごす。未来で聞いた話では、学生生活の途中ら辺から彼等は付き合いだしたらしいから、今彼等の仲を心配するのは、取り越し苦労というもの。今の問題は他の事だ。
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08.08.02 修正完了