少女が目を開けると、そこには一人の老人がいた。椅子に座り、両手を机の上で組んでいて、半月型の眼鏡越しに少女の方を見つめている。その海より深い青いキラキラと輝く目は、少女が此処へ来る事を知っているようだった。
「お久ぶりです、ダンブルドア先生」
「元気そうで何よりじゃよ、」
少女、はダンブルドアに軽く頭を下げる。それにダンブルドアは微笑み返しながら、傍のソファに座るように施す。は素直にそれに従い、手に持っていた荷物を置くと傍のソファに腰を下ろした。彼女の座ったソファの目の前のソファにダンブルドアも移動する。
「さて早速じゃが、今朝レンから君が此方に来るという事だけが簡潔に書かれた手紙が来てのう」
「あ、はい。理由をご説明します」
早急に手紙を出してくれたのだろう。レンにこの世界へ行く事を告げたのは昨日の朝の事だった。それでもあの慌しい中で手紙を出してくれていた事は凄く嬉しかった。
のその言葉にダンブルドアは頷き、何所から出したのか、杖を一振りした。すると、何所からともなくティーセットが浮かんで来た。そのティーセットは二人の間にある机に着地すると、独りでにカップに紅茶を注ぐ。ダンブルドアの勧めではその紅茶を受け取った後感謝の言葉を返し、話始めた。
「えと、私は"この世界"の"この時代"に生じた歪みを修正しに来ました。この世界は、数十年前と同様に歪みが生じているんです。そして、この世界の未来にも歪みは生じてました」
「という事はお前さんは未来に行って来たのかの?」
「はい。今から二十年くらい先の未来に、つい先日まで」
「そうかそうか。それにしても、この世界は厄介な世界じゃな」
の言葉にダンブルドアは驚きもせずに茶目っ気たっぷりにそう言った。まるで、彼女がそう言うだろうと解っていたようだ。彼は彼女に先を話すように言う。
「後は、私のこの容姿についてなんですけど…」
「どうやら、わしの目がおかしかった訳では無さそうじゃな」
と言ってダンブルドアは優しく、けれど悪戯っぽく笑う。それには苦笑いを返した。全く、この老人は。話をしていても暗いムードには決してならないな、とは胸中で呟いた。それがこの人物の良いところだ。校長には持ってこいの人間だと思う。
「私は数十年前にこの世界を去っていますよね。その直後にある事のリバウンドで時が止まってしまったんです。ある一種の呪いだと聞きました。ずっと十三歳のままで成長しなくなったんです。でも今はある人のおかげで呪いが解けて、その反動で十一歳の体に戻ってるだけなんです」
「という事は、呪いは完全に解けて、これからは今まで通り成長するんじゃな?」
「はい。成長は十一歳の体からなんですけどね」
はその後にリバウンドの更にリバウンドを受けちゃうなんてある意味凄い体験ですよ、と軽く舌を出して苦笑いした。一気に十三歳まで若返った後に今度は十一まで。世の高年齢の女性から恨まれるんじゃないかという程に自分は若返った。あくまで肉体だけだが。頭脳や精神は元の年齢のままだ。
「っと、誰か来たみたいですね。隠れた方がいいですか?」
「いや、大丈夫じゃ。彼女はお前さんに関係のある人物だからの」
扉の外に人の気配を感じて口からティーカップを離してソーサーの上に置き立ち上がろうとするが、大丈夫だと知り再度腰を下ろす。はて?自分に関係のある人物とは一体誰の事だ。が首を傾げて考えていると校長室の扉がノックをして開けられた。
Snow White
きっと何かが変わる
校長室に入って来たのは一人の厳格そうな魔女だった。そしてにはこの入ってきた人物に見覚えがあった。忘れろと言われても忘れはしないだろう。自分の姉の様な存在で、大好きだった人物。否、今でも好いている。過去の世界でも未来の世界でも出会った。
「ミネルバ!」
「な…っ、!?」
そしてそれは此方の魔女、ミネルバ・マクゴナガルも同様。今自分に抱き付いてきたこの少女は自分が妹の様に昔可愛がっていた人物だ。だが彼女は知らぬ間に姿を消していた。自分がホグワーツを卒業して二、三年の月日が流れた後に彼女の消息は掴めなくなった。そこまで考えてマクゴナガルははっとした。何故、この少女は数十年前と姿形が変わっていないのか。否、変わっている。変わってはいるが、初めて会った時と同じ年頃の姿に戻っている。一体何故。
「アルバス、これは一体…」
「ミネルバ、その事は今からわしが話そう。さて、部屋の鍵は開けてきたかの?」
「え、えぇ」
「、未来に行って来たのならば変身術の今の教授が誰だか解るの?」
「はい」
はマクゴナガルから離れて満面の笑顔でダンブルドアの問いに答えた。マクゴナガルはまだを見て呆然としていた。ダンブルドアはの嬉しそうな返事を聞いて優しく微笑みながら言う。傍から見ればまるで孫をあやす老人の様だ。
「ミネルバの部屋の隣にもう一つ部屋を作っておいたから、学校が始まるまで其処を使うと良いじゃろう」
「あー…私、レンの計らいでこッちの世界に一軒家を建ててもらったので…そのー…」
「なーに。次の休暇から其方に帰ればよかろう。夏休みも残り一週間。家に戻るよりは此処に居た方が楽じゃと思うのじゃがの」
え、っとはその場で一瞬固まった。今目の前の人物は何と言った?一週間だって?学校が再開するまで一週間しかないのか。確かにそれならばレンが用意してくれた家に戻るよりも此方にいたほうが楽だ。だが、残り一週間というのは正直かなり驚いた。自分は"この世界のこの時代の夏休み"へと空間移動をしてきた。だが数週間の細かな時間軸までは気にしてはいなかった。自分的には学校が始まるまで残り二週間くらいは残っていると思っていたのだが、それよりも一週間時が経過した時へと来たようだ。
「(学校が始まる前に疲れなきゃいいけど…)」
そう、自分にはやる事が沢山ある。先ずは今の学校内の色々な状況を把握する事。自分はこの世界へ遊びに来たのではない。未来に関わる重大な事をしに来たのだ。とりあえず格場所の状況把握くらいはしなければ。それはきっとそんなに時間は掛かるまい。此処は未来も過去も同じ創りになっていた。多少違うものはあっても、本当にごく少数のものが増えたり減ったりしているだけだ。
問題はどの辺りに空間の歪みができているかの調査だ。過去も未来も歪みはイギリスの魔法界に関係のある場所で見つかったのだから、今回もその線が濃い。だが、魔法界関係と言ってもかなりの広さになる。ホグワーツ周辺を始め、ホグズミート村やダイアゴン横丁や魔法省内部、それこそあげれば幾らでも場所は出てくる。其処を一週間で全て回り歪みを発見するのは不可能に近い。
「(…やっぱり、エミュールの仕事はレンに任せるべきだったかなー)」
そうなのだ。その二つ以外にも皇帝の側近としてエミュール関係の仕事がある。ここへ来る前にレンにはいつも通りに仕事をこなすので、仕事を送ってほしいと告げた。今考えれば学校が始まるまではその行動は控えるべきだった。
「えーっと、それじゃあお世話になります」
ペコリ、とダンブルドアに頭を下げる。とりあえず、過ぎた事を嘆く暇はない。そんなことをやっている暇があるのならば、やらなければならない事をしなければ。さて、この一週間の間にどれだけの事が出来るか。
「では、。君は先に部屋に行っていなさい。わしはミネルバに君の事を説明しよう」
「お願いします」
そういってからはソファの所まで戻り置いてあった荷物を手に持った。そしてダンブルドアに再度一礼した後、入り口のマクゴナガルのもとまで行き笑顔で言う。
「じゃ、ミネルバ。また後で会おうね!」
訳が解らないといった表情のマクゴナガルと終始優しく微笑んでくれていたダンブルドアを部屋に残しは宛がわれた自室へと足を運ぶのだった。
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08.05.04 修正完了