「よく来た、よ。待っていたぞ」
怖い。目の前のこの男が。この男の赤い目はまるで血のよう。
「遅くなって申し訳ありません、我が君」
膝をついてその場に深く頭を下げた。男がふっと不適な笑みを顔に作ったのが気配で解った。
「顔をあげろ、。お前は今日から俺様の女となるのだからな」
「・・・はい」
さっきからギンギンと隣から向けられていた殺気が、男の言葉で更に強まった。発信源はベラトリクス・レストレンジ。どうやら私がこの男の女となるのが相当気に入らないよう。私だって好きでこんな人殺しの妻になるんじゃない。
「皆下がれ。俺様はこれから俺様の妻であると話がある」
その場にいた死喰い人は男の言葉にすんなりと従い、部屋を出て行った。
「さて。俺様はこの日を長い間待った。お前が俺様のものになる日を。何故俺様がお前を選んだか解るか?」
「・・・私の家が今まで隠れていた、最後のスリザリン直系の家、だからですか?」
「その通りだ。何故この高貴な俺様が貧弱で軟弱な者達しかいない、しかも四つの中でもどん底のできの悪さで有名なハッフルパフ出身のお前を妻にするか。その理由は唯一それだ」
腸が煮えくり返りそうだった。そこまで言うか、この男は。確かにハッフルパフ生は劣等性だとかよく聞くけど、そんなこと絶対にない。寧ろハッフルパフはあの四つの寮の中で一番絆の深い仲間が作れる最高の寮だ。
母もそう言っていた。母も私と同じハッフルパフの出身。そして父はスリザリン出身にも関わらず、ハッフルパフ出身の母と結婚した。姓はスリザリンと無縁の母の姓を名乗り続けていた。
「お前の父親の家系は有名だった。遠い昔はな。今では一族全員がいなくなってその名もめっきり聞かなくなったが。だが、生き残りがいた」
それが私か。母の姓で生きていた私をよく見つけたな、この男は。否、この男にとっては容易いことか。
「""なぞという汚らわしいマグルの姓を名乗っているお前を俺は見つけ出した。そしてお前を死喰い人へと誘い今日まで俺様の近くへ置いてきた。いつの日か、スリザリンの血が流れるお前を俺様の妻にするために」
そう、私は今日までこの男の傍にいた。そしてありったけの情報を集めて、少しずつだけれど外へ流していた。でも、
「それも今日で終わりだ、」
そう、解っていた。
「お前がしてきたことは全て俺様の忠実な僕から聞いた」
この日が来るのは解っていた。たった一人で敵陣に乗り込んでバレないように情報を垂れ流すなんて到底無理な話。それを解ってて私はこの仕事を請けた。
「お前があの老いぼれの手先だったということをな」
「・・・ダンブルドアは偉大なお方よ。貴方になんて負けはしないわ、ヴォルデモート」
不適な笑みを浮かべながらも私の背中や額には薄っすらと嫌な汗が滲み出ているのが解った。勝てるのか、こんな化け物に。
ヴォルデモートは私の言葉を聞くと、おかしそうにくつくつと喉を鳴らして笑った。
「やはりお前はあの劣等集団の生まれだ。お前がスリザリンの血をその身体に流していることが俺様は気に食わん」
「別に貴方の気をよくしようとなんて最初から考えちゃいないわよ」
勝てなければ、死。間合いは十分にある。例えアバタケタブラを唱えられたとしてもここに届くまで0.5秒はかかる。それならば避けられる。私だって伊達に死喰い人の中にいたわけじゃない。少しくらい魔法の腕に自信くらいある。
「惜しいな。闇の帝王を目の前にしてもなお、その気の強さは俺の妻となるに相応しかったというのに」
「貴方の女なんてこっちから願い下げよ」
でも、相手は今この世を震え上がらせている闇の帝王。そんな人相手に私が勝てるわけないじゃない。
「お前に俺様からの最後の情けをかけてやろう」
「・・・・」
「お前の死体はそのままあいつらに返してやる」
それはとても光栄ね、そう言おうとした瞬間、横から殺気を感じて、素早く後ろに飛んで避けた。まさか気配を消した大蛇が迫っていたなんて。
「ほお、避けたか」
死体は向こうに、か。ならこれが本当の本当に私の最後の仕事ね。世界で多分私にしか使えない術。そして多分この男は私がそれを使えることを知らない。
「そう簡単には殺られてあげないわ」
ねえ、シリウス。
私ね、貴方と話せるなんて思わなかった。
あの日、あの場所にまさか貴方が来てくれるなんて。
ダンブルドアに情報を渡すのは正直厳しかった。あの人は常に死喰い人が居場所を探していたから、もし私と会うために出てきた所を死の呪文で、なんてことがあったら、一瞬で騎士団が消滅しかけない。
だからあの桜の木で考えてたの。故郷にあった木と同じあの桜の木の上で。
シリウス、大好きだよ。
ずっとずっと大好き。
さあ、
「死のゲームを始めましょうか、ヴォルデモート」
サクラの数日と桜の一生
おかしい。いつもなら絶対にいるのに。
「(・・・どこ行ったんだ、あいつ)」
主がいなくなったサクラの木はいつもより寂しそうにみえる。俺はそのサクラの木の根元に腰を下ろして遠くを見つめた。
『バイバイ』
ほんの少しだけいつもと違ったあいつの別れの挨拶。何が違ったかって言われるとよく解らないけど、何かがひっかかる。
何か嫌な予感がして来てみれば本人は不在。
「・・・・街にでも出てるのか?」
いつも俺が行く時には必ずサクラの木にいたがいない。それが俺を一層不安にさせていく気がした。
風で揺れる花の音しか聞こえなかった空間に、ふわっと現れた煙のようなもので出来た牡鹿が人の声を運んできた。
『騎士団は全員大至急本部に集合』
それだけ伝えると牡鹿は崩れるように消えた。
「ジェームズか・・・一体何だってんだ?」
兎にも角にも行かなければいけない、と思いその場から腰をあげて姿くらましをした。
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09.04.09