「ねえ、シリウス。デートしようよ」
「あ?あ、ああ、別にいいけど、お前この木の精霊なんだからココから動けねえんじゃねえのか?」
昼飯のサンドウィチを食べる手を止めて頭上に広がるサクラを見上げた。想いが通じ合って一週間。に会うのは必ずこのサクラの木の下。もしくは上。だからてっきりサクラの精だというはこの場所から動けないんじゃないかと思っていた。というかこいつ自身最初にそう言っていた。サクラからに視線を移すと、シリウスってば本の読み過ぎなんじゃないの?、と少しばかり笑われた。
「今時の精霊は進化してるんですー」
「・・・精霊って進化するものなのかよ。てかお前最初に自分で『ここから動けない』とか言ってたじゃねえか」
「まあ細かいことは気にしない気にしない。でね、デート、今からしない?」
「今からあ?」
だめ?、と聞かれれば断る術はない。別に断れる理由もないけれど。
自分でもほとほとには甘いと思う。こんな所をジェームズ達にでも見られた日には大笑いされるだろうし、リーマスに至ってはあの腹黒い笑顔でいじりまくってくるに決まってる。
「どっか行きたい場所あるか?」
「うーん・・・特には。とりあえずデートっぽい事がしたい」
デートっぽい事、ねえ。人間相手ならまだしも相手は精霊だ。普通の女が好きなショッピングなんかを精霊であるが面白いと感じるとは限らない。前に付き合ってた女共はいつもやれショッピングだ、やれ何処だと行きたい場所を騒いでいたから、自分が行き先を決める事など数える程しかなかった。
「と、とりあず町に行ってみるか」
「りょーかい」
こんなに悩むのはが好きだから。を心の底から好きだから。変なミスなんかして幻滅されたくなんてねえ。今まで近付いてきた女は数え切れない程いた。付き合った回数も数知れず。けど、一人の女をここまで好きになった事はない。初恋は実らない、なんて誰の言葉だよ。俺はちゃんと実ったぜ?
サクラの数日と桜の一生
指と指を絡ませて手を繋いで、並んで歩いた。一緒に色んなお店を見て回った。魔法族が一番集まる街、ダイアゴン横丁には負けるけど、それなにりいい街だったと思う。お菓子屋もあったし雑貨屋やバー、悪戯店までもがあった。
ねえ、ちゃんと恋人同士に見えたかな?ちゃんと貴方の恋人として見てもらえたかな?
「シリウス、今日はありがと」
「急に改まってどうしたんだよ」
「別にー」
街外れにある湖の畔に座りながら今日あった事を思い出しては幸せだったな、と感じる。こんな自分がシリウスと付き合えるだけでも奇跡に近いことなのに、まさかデートまで出来るなんて。デートをしたいと言い出したのは自分だ。けど、今からという願いを聞き入れてくれるとは思わなかった。
「これ、大切にするから」
「うん」
チャラッとシリウスは自分の首にかけてある小さなシルバーリング通っているネックレスを軽く持ち上げた。急にデートに連れてってと言った私の我侭を聞いてくれたお礼に、とさっきあげたもの。
なんて、本当は違う。お礼にっていうのもあるけど、本当は違う。そんな綺麗な理由なんかじゃない。そもそも私自体精霊なんていう綺麗な生き物じゃない。
貴方に愛される資格なんてない。ましてやきっと喋る資格もないくらいに私は貴方に酷い事をしている。この瞬間までも。
「(・・・でも)」
そう思っていても、この幸せを崩したくはない。だから今日までこうしてきた。何も語らずにここまできた。出来ることならばずっとこのままで。否、時間を戻して違う会い方をして、そしてまた恋人同士になりたい。
嗚呼、なんて愚かな考えだろう。なんて汚い考えだろう。
「シリウス」
また明日って言えばいいんだ。いつもと変わりなく別れればいいんだ。引き止めてほしいなんて思っちゃだめ。
「?、どうかしたか?」
「・・・今日はもう帰るね」
「お、おう。んじゃあ、送ってく」
「だーいじょうぶ!それにね、実はこの後ちょっと用事あるんだ」
「精霊にも用事なんてあるんだな」
ズキン。
"精霊にも"、か。
「実はあるんですー。って訳で帰るね」
「解った。気をつけろよ」
「うん」
最高の笑顔を貴方に覚えていてほしいから。だからこれ以上ないってくらいに微笑んだ。そしたら抱きしめられてキスされて。決心が揺らいだのは完全に今私を抱きしめてる彼のせい。行きたくはない。でも、行かなくちゃ。決心を無くしてはいけない。
「愛してる、」
私も、
「・・・愛してる、シリウス」
心から、ずっと。
だから、愛してるから言うの。
「・・・もう、行かなくちゃ」
心が叫んでる。離れたくないと。
ずっとこのままでいたいと。
でも、これは彼とあの桜の木の元で出会う前から決めていた事。
今更この計画に変更なんかできない。
例えそれが自分の心を殺すようなことだったとしても。
最後の言葉になんてしたくない。でも、きっとそうなる。神様が私に力でも与えてくれるんなら話は別だけど。
でもそんな事無理だから。
だから、愛する貴方に私からの最後の言葉を送るね。
「バイバイ」
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08.11.04