サクラの数日と桜の一生
あの場所まで全速力で走ってきた俺の目に映ったのは、雨に負けずいつもと変わらず綺麗に咲いているサクラと、そのサクラ木の下で雨宿りをしているの姿だった。
良かった、消えてねえ。
俺の気配に気付いたのか、ふとがこっちを向いた。その目に俺を移すと驚きに目を丸めて、雨に濡れるのも構わずに俺の方へ駆け寄ってきた。
「ちょ、ワンコ、大丈夫!?」
ワンコって、その呼び方はどうなんだ。
ずきずきと痛む傷に負けて俺はその場で崩れるように倒れた。自分の血が雨と一緒に地面に流れているのが見える。
「っ・・・シリウス!」
「!?」
今こいつ俺の名前を呼んだ?まさか、今目の前に倒れてる犬が俺だと気付いたのか?はは、やっぱ精霊にはなんでもお見通しかよ。
俺は倒れたまま、人間の姿に戻った。戻ったのと同時にが俺のもとに辿りつき、俺に触れたのが解った。雨と出血多量で熱が奪われていたため、の肌の温もりが凄く気持ち良く感じる。あ、俺今何気に膝枕されてる状態?
「っ・・・んで・・・何で、こんな傷・・・っ」
「・・・・・・好きだ」
「っ!?」
やっと伝えた。
俺の事を心配してかポロポロと涙を流すの目が先程同様大きく見開かれた。
「・・・消えてなくて、良かった・・・・・」
俺はの頬へと手を伸ばした。その姿がまだちゃんと存在しているのかを確かめるように。触れたの頬は人間と同じようにちゃんと温かくて、は消えてない。生きているんだ、と実感できてほっとした。
俺の手に自分の手を重ねながらが言った。
「・・・シリウス・・・ヤだ・・・嫌だよ、死なないで・・・」
「・・・ばーか・・・勝手に、殺すなよ・・・な・・・」
「・・・だってっ、シリウス・・・手、こんなに冷た・・・っ」
の声を聞きながらも俺の意識はどんどんと遠くへ飛ばされようとしていた。体の感覚は無いに等しいのに、傷口とに触れている箇所だけが熱い。
「(・・・俺、死ぬのか?)」
否、まだだ。の腕の中って事を考えれば死に場所としては問題ない。寧ろ嬉しいくらいだ。けど、
「(・・・死ねねえ。死んでなんかやるかってんだ・・・)」
たった今やっと一つの幸せを手に入れたんだ。それをみすみす放り投げるなんて御免だってんだ。
そう思った瞬間、俺は光に包まれた。と思ったらその光はすぐに消え、視界にはまた先程と変わらない光景が。否、雨と黒い空は変わらない。けどの表情だけは違った。
「・・・え、俺・・・、?」
「良かった・・・私の力でも治せるような傷で」
の表情は安堵していた。
「・・・え、は?、お前今何かして・・・、」
そこまで言って気付いた。痛みが、ない。さっきまでわき腹と肩にはズキズキという痛みとその部分にだけ大量の熱があったのに。今はそれが微塵もない。
「、お前・・・」
「ま、何たって精霊だからね」
涙を拭いながらえへへ、と笑う。その姿が堪らなく愛おしい。俺はゆっくりと体を起こし、
「ちょ、シリウス。幾ら傷が塞がったからってまだ安静にしてた方、が・・・!?」
を抱き締めた。ふわりと香る桜の匂い。伝わる心臓の鼓動と体温。全てが愛おしいと思った。
「ちょちょちょちょっと、シリウス!?」
「・・・傷、ありがとな」
「え?あ、ああ、うん、どういたしまして。って、違う違う。そうじゃなくて一体どう、し・・・っ」
反応が可愛くて、本能のままににキスした。ら、
「・・・不意打ちはほんっと止めてクダサイ」
そう言いながら顔を真っ赤にして俺の胸に顔を埋めた。
「(・・・その顔は反則だろ)」
可愛すぎる、とか思った俺はもうしか見えてないんだろうな。明日ジェームズ達にこの事話したら大爆笑されそうだけど、でも話したいとか思う俺はどうかしたんだろうか。もしかしたらこれが世間一般でいう惚気話とかいうやつなのか。
俺はもう一度その存在を確かめるかのようにを抱き締めた。願わくばこの時が永遠に続きますように。
いつの間にか雨は止み、綺麗な夕日が俺たちを照らしていた。
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08.09.29