月下の悪戯
うーん。
「それを渡してはくれませんかね?」
・・・・うーん?
「お願いします。私にはそれがどうしても必要なものなのです」
・・・・・・・・・・・うー、ん?
「目当ての宝石ではなかったら必ずお返しいたしますので」
・・・・・・・・・・・・・・・・。
「お願いします、キティ」
・・・え、何で私がメスだって解ったの、この怪盗。(キティ=メスの子猫の意味)
じゃ、なくて。
何か、驚いた。たかが猫に対しても紳士的なのかこの人。
猫からだったら普通に取り上げられたただろうに。キッドは人気の無い建物の屋上に着地し、腕の中の私と今まさにこうして向き合っている。
何か、変なの。
「おっと」
私はキッドの腕からピョンと抜け出し(ちょっと飛び降りるのに勇気使った/だってもとは人間だもん!怖いよそりゃ!)、キッドと向き合うように地面に座った。
そして自分の足元に、くわえていた宝石を置いた。
「ニャー」
「・・・良い子だな」
顎の下を撫でられ、予想外に気持ちよくて猫のようにごろごろと言ってしまった。
・・・・いや、だから今私は猫なんだって。
「んー・・・・」
キッドは私の足元から拾った宝石を月にかざした。何してるんだろう?
そういえば、今日は三日月だったんだ。何だか、あの月笑ってるみたい。
何ですか。私が猫になってキッドに連れ去られたのを嘲笑ってるんですか。
「これもハズレか・・・」
ハズレ?ハズレとは一体何のことだろう?
そういえばキッドはいつも盗んだ宝石は必ず返している。毎回あんなビックジュエルを標的にし、盗んでも返すなんて何か訳がありそう。
「・・・今回も収穫無しか。しゃーねえ、これはお前に返すよ」
そう言ってキッドが私のもとへ宝石を返そうとした瞬間、
バーンッ
耳をつんざくような大きな音。そして地面への衝撃(しかも私の足すれすれの所の)
「ニャッ!?(何!?)」
地面への衝撃は銃弾。私の足のすれすれのところに銃弾がめり込んでいる。
何が起きたのか解らずに弾の飛んできた方を瞬時に見ると、そこには黒ずくめの男達が。
「(まさか・・・っ!)」
私の脳裏に浮かんだある人物。
一度だけ見たことがある。銀髪の長い髪に黒ずくめの服。あの温かみの欠片も感じられないような目。一瞬にして恐怖心を抱いた相手、ジン。
新一をコナンの体にした奴等の一人らしい。新一は『黒の組織』と呼んでいて、とにかく危険な連中の集まり。
この男たち、もしかしなくても『黒の組織』!?
「(でも、だとしたら何でここに・・・)」
「また会えたな、怪盗キッド」
「・・・・・・」
キッドの知り合い?、と思い彼を見上げると・・・・
「(・・・・会いたかった友人、ってわけではないみたい)」
まあそんなことはさっきの発砲で解ってはいたんだけど。
キッドのこの警戒態勢といい、相手の拳銃の銃口先といいい、これは仲が良いどころか、敵同士だ。
「要求は分かってるな?さっさとその宝石をよこせ」
「残念だったな。これはお前達が探していたパンドラじゃなかったぜ」
「それは俺達が判断することだ。宝石をその場において後ろに下がれ」
狙いは『アストライアの涙』。
キッドは男の言う通りに、その場に宝石を置き私を抱きかかえ後ろに下がった。
「(・・・って、え!?何で私またキッドの腕の中にいるの!?)」
そりゃあ、宝石の傍にいたら危ないかもしれないけど。私は早く新一のもとに戻りたいんだよ。
「(でも・・・・)」
何となく、この状況も放ってはおけない。銃口を向けられたままのキッドに、相手の手に渡ろうとしている宝石。
「ニャ・・・」
「・・・悪ぃな。巻き込んじまって。すぐにご主人様のとこに返してやっから」
少し心配になり、腕の中から彼の顔を見上げるように小さく鳴くと、それを怖さのあまりの行動だと思ったのか、キッドは私に優しく微笑みかけた。
まるで、安心させるかのように。
「(・・・・・ちょっと・・)」
似てる、新一に。
外見とか雰囲気とかではなくて、笑い方が。
「(もしかして・・・・)」
怪盗キッドって私たちと歳、近いんじゃない?
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10.12.15