月下の悪戯
そう思った瞬間、何となくこのまま何もしないのは悪い気がしてきた。宝石に関しても、キッドに関しても。
宝石は、いつも私が迷惑をかけてる新一が守ろうとしていたもの。あれは恩返しのためにも絶対守りたい。
キッドは、何故だか解らないけど助けたいと思った。年齢が近いかも、と思ったせいかもしれない。
もし、同じ高校生だとしたら(笑い方が高校生のそれだった)、銃口を向けられたままの彼をこのまま放置して、自分だけ新一達のもとに戻るのは何とも気の引ける行為だ。
「(・・・・・猫の身体能力だったら銃弾の一つや二つ・・・って、え?)」
急にキッドに降ろされた。私はまた地面に足をつけたのだ。
「逃げるなら奴等が見てない今だ。とりあえず安全な場所に隠れてろ」
どうやらキッドは彼等の隙を突いて私をそこら辺へ逃がしてくれるらしい。
ちょっと立ち向かってみようと決心した矢先にこれだ。
でもキッドは逃げる気はないようだし(むしろ戦う姿勢だ)、邪魔にはなりたくないので大人しく言う通りにした。
「(・・・・・・いいのかな・・・)」
幸い、屋上には隠れられる物陰があったので、そこに身を潜めることにした。
同時に、襲ってくる疑問。
このままでいいのか。近い歳の男の子が拳銃と戦っているのに、助けもしないでいいのだろうか。
しかも相手はあの黒の組織かもしれない。
バンッバンッ
銃声が聞こえた。それは先ほどのと同じ音。そえに加え、キッドのトランプ銃の音も聞こえてくる。
状況が気になり、そろー、っと物陰から顔を出してみると・・・
「・・・・っく」
「はははははは!今日が年貢の納め時だキッド!!」
リーダーの男と思わしき人を中心に、周りにいる他の黒ずくめの男達も次々と発砲している。それを紙一重で交わしているキッド。
「(・・・ちょっと、それは反則でしょ!)」
気付いたら私は飛び出していた。
銃弾飛び交う中に飛び出すなんて、なんて勇気のいることだろう。
怖かった。けど、猫の体は人間よりずっと小さいし、銃弾にあたることもないかというのが私の結論。
そして瞬発力なんかも上がっているのではないかという勝手な妄想。
とりあえず私は弾が避けられて、キッドが逃げ出せるだけの隙が作れればいい。
「ニャー!!!(一対大勢は反則だってーの!!!)」
リーダー格の男の顔目掛けて、全力でジャンプし、引っ掻いた。ああ、人の顔引っ掻くって、いくら猫でも気持ち悪い感触だ。
「スネイク様!」
「このクソ猫!!」
一人は私が今引っ掻いた男にかけより、もう一人は発砲。私に向かって。
「・・・ッ、ニ"ャー!(いやー!やっぱ銃弾は無理ー!)」
さっきのキッドではないが私も紙一重で男の銃弾を交わしていく。うわわわわっ、やっぱり銃弾怖いー!こんなん今避けられてる自分に拍手だよ。
バーンッ
「・・・・・ッ」
当たった。銃弾が。私の右足に。
「(いったー・・・・っ。何これ、叫びたいほど痛いんですけど・・・!)」
「・・・フフフフ、ざまーみろ。クソ猫が」
私が引っ掻いた男が顔を抑えながらこちらに銃口を向けていた。やっぱり猫でも銃弾は避け切れなったか、と胸中で舌打ちしたい気分になった。
「さあ、お前の命もここで終わりだ」
何とか逃げなきゃ、とは思うものの体は傷の痛みで上手く動かず。意識も朦朧としてきた。
「(・・・やばっ・・・傷の痛みとショックで・・・意識が・・!)」
ここで気を失うなんて、それこそ永遠の眠りについてしまう。そんなのはご免だ。何とかしなきゃ、何とか。
「(・・・でも・・・っ)」
体が、言うことを聞かない。目の前が霞む。
「(・・・・私、猫のまま死ぬのかな・・・)」
そんなの嫌なのに。
っていうか人助けをして自分が死ぬって、どんだけバカなの。
・・・・・・・・・・。
「(・・・・・やっぱり、死ねない)」
死ぬわけにはいかない、絶対に。死にたくないもの、絶対に。
そう思った瞬間、目の前は純白で覆われた。そして体に感じた温もり。
それを最後に、私は意識を手放した。
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10.12.15