月下の悪戯
「ニャニャニャー?(キッドからの予告状ー?)」
「・・・・・・・・・わり、やっぱ何言ってんのか解んねえ」
ですよねー・・・。
私が猫になってからまだ三日しか経ってないもん。たった三日で猫の言葉が理解できるようになったら、それこそ名探偵だよ。猫にも聞き込みできちゃうよ。
「で、どうだ灰原。薬できそうか?」
「まあ、何をどう失敗したのか原因は解ったし、あと数日あれば大丈夫よ」
この三日間、哀は学校から帰ってくると真っ先に自室に篭り、あの薬の研究をしてくれていた。にしても、思ったよりも早く戻れそうだ。また昨日のような事が起こる前に是非とも元の姿に戻りたい。
三日の間、私の事を心配して行動を起こしてくれていた人物がもう一人。江戸川コナンこと工藤新一その人だ。中学からの同級生で、彼の幼馴染である蘭と比べると、そこまで自分と新一は親密な関係ではなかった。けど、他界した両親が新一の両親と同級生だった事から、普通の友達以上には仲が良いと言っていい。
現に私は彼に興味本位でついていき、彼が事件を解決するところを何回も目の前で見ている。別に私はホームズオタクでも、推理バカでもない(蘭が新一をそう呼んでた)。ただ、お父さんの方の影響で、細かい事に気づくことがあったり無かったり。
あの優作おじさんと仲が良かった父さんも、やはり探偵で。小さいころから頻繁に謎々を出されたり、推理小説の話を聞かされたり。
そんな生活を送っていれば、一般人よりは細かいことに気付くもので。それもあって、新一は何も言わずに私を自分の後ろにつかせていた。
だからと言って私が相当新一の役にたってるかと聞かれれば答えはNOだけど。
「(だから、心配してくれてるのはよく解るんだけど・・・)」
解るんだけど、いただけない昨日の出来事。
毎日学校が終わると、哀と一緒にここへ帰ってきた私の状態を確認しに来てくれている。
そしてそれは昨日も変わらずだったのだけれど、昨日は悪魔の子たちも一緒に来たのだ。
否、本人たちは決して故意であんな事をしたわけではないけれど(っていうか私もいつもならあの子達をそんな風に思わないけど)。
自分が猫になったせいなのか、何気ない行動がとても危険に思えてしまう。人形のように引っ張れたり、零した紅茶がかかりそうになったり、寝ていたらしっぽを踏まれたり。
「(少年探偵団のあの子たちがあそこまで恐ろしく思えたことは昨日が初めてだって・・・)」
二日も続けてそそくさと帰っていく二人を不審に思って、一緒に博士の家まで来たらしい子供達。道中新一から私の事を聞かされたのだろう(勿論、猫を拾ったとかいうありきたりな嘘をついて)。もちろん、彼らはただの猫として私と接したのだろうが、何分私は人間だ。ちょっとした事でも不快にはなる(そもそも昨日のは普通の猫でも不快に思うって)。
「それより、博士があなたに渡すものがあるって言っていたわよ」
「ああ、今日はそれを取るのも兼ねて来たんだ」
「あのこそドロさんとの対決策?」
「まあな」
ああ、そういえば予告状来たってさっき言ってたっけ。そう言われると朝のニュースでそんな事もやってた気がする。博士がせめてもの侘びにと買ってきてくれた漫画(退屈凌ぎのための)を読むのに夢中になってニュースなんて右から左だったわ。
・・・・・・・傍から見たら異様なんだろうな。猫が漫画読んでるのなんて。
「(確か、犯行は今夜・・・だったような)」
自分の曖昧な記憶が正しければ、キッドは今夜あの白い衣装に身を包みショーをするために民衆の前に現れる筈だ。あのキザな台詞とともに。
と、なれば・・・
私はぴょん、とペン立てとメモ帳がある台の上に飛び乗り、ボールペンで紙に字を書いていく。ああ、これまた奇妙な光景なんだろうな。猫が二本足で立って、両手でボールペンを持って字を書いてるなんて。ちょっと今思ったけど、自分が変身したのがロシアンブルーのような体系の猫でよかった。バーマンみたいな長毛種だったら、きっと毛が邪魔になってウザったく思ってしまったに違いない。
「『つ、れ、て、け』だー?」
「ニャー」
メモを覗きながら、そこに書かれていく文字を一言ずつ声に発した新一。その言葉が間違っていないことを示すために私は一声鳴く。
「バーロー。ダメに決まってんだろ」
「ニャー!(ケチー!)」
だって暇なんだもん!この三日間外には出てないし、博士が買ってきてくれた漫画は昼間で全部読み終わっちゃうし、この家の探検は一日目に全部終わっちゃったし。このままじゃ食っちゃ寝生活が幕を開けちゃうよ!
「ニャーニャーニャー!(連れてって連れてって連れてってー!)」
ニャーニャーと鳴き散らす私。新一はちょっと迷惑そうな顔で『ダメ』の一点張り。
迷惑にならないようにするから連れてってー、という思いを込めて鳴いていたら救いの手が差し伸べられた。
「いいじゃない」
「え?」
「この三日間、閉じ篭りっきりで、流石に気分転換に外に出たいんでしょ。それに、があなたの迷惑になるような事をするとは思えないわ」
ああ、ここに女神様がいらっしゃる。
「ニャニャ!(そうそう!)」
哀の言葉を肯定するように私は大きく頷く。それを見た新一は少し考えたあと、深い溜め息を一つ。
「・・・いいか、絶対勝手な行動するなよ」
「(よっし!)ニャー!」
心の中でガッツポーズ。そして、了解、という返事の代わりに一鳴き。
こうして、私の猫としての初外出が決まったのだった。
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10.05.05