月下の悪戯
「・・・・・・・・」
白い煙。見知った彼の声。その声色から今は小さな彼が、大いに慌ててることが解る。そして、この言いようのない気持ち悪さ。さっき食べた夕食の和風パスタが体内からリバースしてきそう。
って、そんな事思ったのがつい数分前。
そして小さな科学者の彼女が、この家の家主でもある発明家が、それぞれ騒ぎを聞きつけて自室とトイレから出てきたのは数秒前。
「博士、この飴どうしたの?」
「ん?それは昨日わしが新作のメカで作ったもので・・」
「・・・・・メカ?」
「そうじゃ。飴を作るメカでのお。近所の人から頼まれたんじゃよ。
何でも、家で簡単に市販のような飴を作りたいらしい。けど、わしのメカがくんがこうなてしまった事に何か関係あ「それ、もしかして角砂糖使ったんじゃないでしょうね」
関係あるのかの?、と言いたかったんだろう。残念だけれど、阿笠博士の言葉は哀に遮られてしまった。
「お、おお!よく解ったのお!一粒作るのには角砂糖一つ分で十分じゃからな」
「・・・・・・・博士、私の部屋に勝手に入ったわね?」
「ギクゥッ」
彼女が指差していたものは、机の上に置かれた角砂糖の入れ物。あれが、今回のことに関係しているのだろうか。
っていうか博士、ギクウッ、て普通口で言わないでしょ。
「い、いやー・・・砂糖系統は試作品の段階で全て使ってしまった事を思い出してのー・・・・この間哀くんが持っていたのを思い出して一粒だけ・・・」
「・・・・」
小さな科学者から大きな、その外見にはそぐわない重い溜め息が吐き出される。
そして半目になり、阿笠博士を睨みながら爆弾発言を言ってくれた。
「あれは、私の実験の失敗作よ」
「・・・・・・え?」
彼女の言葉に博士も、そして事の始まりの時からこの場所にいる小さな探偵も聞き返さずにはいられなかった。そして私も例外ではなく、そうしたいところなのだが、
「工藤君が元に戻れるような薬作ってた筈なのに、出来たのは猫になる薬。何をどこでどう間違ったかなんてさっぱり解らない失敗作だったのよ、あの薬は」
「(な・・・な・・・、)」
なにいいいいいい!?
「ニャニャー!ニャニャ!」
「わっ!お、落ち着け!」
今まで新一の隣で大人しくソファの上に座っていた私は、勢いよく阿笠博士に飛びかかろうとしたが、隣の彼に止められる。
ええい、離せ!博士が哀の部屋に勝手に入って勝手に角砂糖貰おうとしなかったらこんな事にはならなかったんだからー!
でもこのまま暴れれば全く関係の無い彼までもを傷つけてしまいそうだったから(今は鋭く尖ってしまった自分の爪で)暴れるのは止めた。
「そ、それで、こいつを元に戻す薬は・・・」
「無いわ」
「ニャー!?(何ー!?)」
な、な、無いですって!?
じゃあ何だ、私は一生このままってことなのか!?
この小さい体で、肉球ふにふにのこの手と足を持って、四足歩行で歩くこの姿で!?
嗅覚と聴覚は人間の時よりも優れているかもしれないけど・・・・だって、猫だよ!?
そこに置いてあった飴を一粒食べた途端、猫になって、もう一生戻れないなんて笑えないにも程がある!
だいたい普通の飴がいっぱい入った入れ物に、実験物を入れないでよ。ロシアンルーレットか!!
まんまと当ててしまいましたよ!
「私の部屋に置いてあったから、まさか誰かが口にするとは思わなかったから解毒剤を作ってないのよ」
「うっ・・・・」
哀が半目で博士を睨んだので、私も同じように博士を睨む。きっと猫の姿の今は全くといって怖くはないのだろうけれど。
「とりあえず、解毒剤は作ってみるわ。・・・一日、二日では無理でしょうけど」
ありがとう!哀大好きだー!、という感謝の気持ちを込めた目で見たら、ちょっと哀れむような目で返された。え、なんででしょうか。
「とりあえず、元に戻れるまでは猫として生活するしかないでしょうけど・・・いつまで誤魔化せるかしらね・・」
「(・・・・・あ!)」
そうか、学校!
家は両親とも既に他界して一人暮らしだから問題ないとしても、学校はまずい。
『帝丹高校二年女子生徒、謎の失踪事件か!?』、とかいうのになり兼ねないぞ。
今ここにいる江戸川コナン、もとい工藤新一は難事件を捜査中のため長期欠席みたいな扱いになってるけど、私は別に探偵でも何でもない。
確かに一般人より少し身体能力値は上だろうけど(新体操部だし)、長期休暇になるような理由を私はそう都合よく持ち合わせていない。インフルエンザにしたって、もし解毒剤が一ヶ月以上も出来上がらなかったら全く意味を持たない言い訳になるし。
「・・・・・・ニャニャニャー、ニャニャニャー(なるべく早めにお願いします)」
項垂れるように猫語で喋ると、何となく言いたい事を察してくれたのか哀は軽く微笑んでくれた。
言葉も通じないし、人間とはまるで違う生活。
これはすごく悪いとは思うけれど・・・
「ニャニャー・・・(まだ小学生で留まった新一の方がマシだと思う・・)」
「?」
私の呟きに、やはり何を言っているのか解らない小さき名探偵は首を傾げたのだった。
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10.05.05
修正 10.07.17