さて、にはおきがあります











「・・とう「王様!?」






桃矢、と思わず言おうとしたのを小狼の声に遮られた。






「誰かと間違ってませんか?俺はオウサマなんて名前じゃないですけど」






そりゃそうだ。
あーあー、小狼くんがすっごい驚いた顔してる。まあ、そうなるよね。自分の知ってる顔なのに"人違い"とか言われちゃあ。






「お客さん、こっちでひっくり返しますんでそのままお待ちください」

「お、おう!」

「(・・・・・・黒鋼・・)」






あんた忍者でしょ。
なんであれくらいの声だけでびびってんのよ。

"桃矢"は、後ろにいた"雪兎"とともに他のテーブルへと歩いていった。






「(うはー、本当そっくり)」






仲が良いところまでそっくりですか。

元の世界の桃矢と雪兎もすっごい仲が良かった。桃矢は桜の兄で、雪兎はクロウカードの番人の一人・月(ユエ)の仮の姿。二人とも私の同級生で、学校でも結構一緒にいたしカード関係のことで関わったりもした。
そういえば"ツバサ"の世界でも桃矢はサクラのお兄さんだっけ。






「次元の魔女が言ってた通りだねぇ。『知ってる人、前の世界で会った人が別の世界では全く違った人生を送っている』って」

「なら、あの二人はガキの国の王と神官と同じってことか」

「ちょっと違うんじゃない?多分、一緒なのは『根源』だよ」






『桃矢がさくらの兄』っていうのも根源の内なのかな。






「根源?」

「命のおおもとー。性質とか心とかー。ってことでしょちゃん」

「流石ファイ。解りやすい解説をありがとー」

「要するに『魂』ってことか」

「まあそんな感じなんじゃないかなーっと」






と言っている間に桃矢と雪兎ではない別の店員が来て、お好み焼きを綺麗にひっくり返していく。うわ、何これ!神業!






「そういえば、ちゃんの国にもさっきの人いたのー?」

「え?何で?」

「さっき小狼くんが『王様!』って言う前に何か言おうとしてたからそうかなーと思って」

「(うわ目敏い)うん、いたよ。因みに桜と小狼もいた」

「え!?」

「あ、性格は全部ってわけでもないけど結構違うよ。私の国の小狼は結構短気だと思う。昔に比べると大分丸くなったけどね」






そういえば、皆どうしてるかな。
っていうか私が消えて元の世界ではどのくらい時間が経ったんだろう。
侑子さんから聞いた話しだと世界ごとで流れる時間が違うんだとか。私が元の世界から離れてもう一ヶ月以上は経つけど、向こうじゃたった二日、三日っていうこともありえるってことだよね。






「でもちゃん、魔女さんの所で小狼くん見てもあんまり驚いてなかったよねー。オレたちの方が後から来たとは言え、その後の話しの内容的に小狼くんたちとそんな変わらない時に来たと思うんだけど」

「(・・・・うわあ、何この分析。やだ、この人敵に回したくない)」

「そういえばてめえ、魔女と親しそうだったな。あいつとどうゆう関係だ」

「私は皆より一ヶ月くらい早く侑子さんのミセに行ったの」

「ミセ?」

「皆が来たとこね、あれ侑子さんのミセなの。願いを叶えるミセ。まあそれで、家で本呼んでたらいきなりあそこに飛ばされて、これから始まる旅に同行してほしいから時がくるまでここで待機、とか言われて一ヶ月あのミセで過ごしてたわけ。その時に侑子さんから異世界については最低限聞いてたから、最初こそは驚いたけど後は受け入れちゃえば別に問題無かったよ」






正確には侑子さんから聞いたんじゃなくて、"ツバサ"を読んだから知ってたんだけど。漫画の話しとかまでしたら凄い面倒くさい事になるし黙っとく。これ以上正義君をアウェイな空間に追いやってはいけないと思うし。






「あ、ほら。お好み焼きできたんじゃない?食べよ!」

「わーい!おっこのみ焼きおっこのみ焼きー!」

「これ何で食べるのー?」

「あぁ?そこに箸があんだろ」

「"はし"ー?」

「ファイの国にはお箸無かったのー?」

「うん。オレの国はナイフとフォークで食べてたよ」

「だったら正しく使うのは難しいかもしれないですね・・・」






やっと解る話しになったのか正義君があわあわといった様子で話しに入ってきた。ごめんね、アウェイな空間にしちゃって。で、今度は小狼が自分の世界に飛んでないか?






「じゃあファイはぐさって刺して食べればいいんじゃない?」

「んー?こういうことー?」






そう言ってファイはお箸をお好み焼きに真上から突き刺した。うん、まあマナー上よろしくはないけど使えないんだからしょうがない。






「いっただきまーす!」

「てめ!それは俺のだろうがっ」






器用にヘラで掴みながら食べようとするモコナ。で、それをこれまた器用に箸で取られたお好み焼きを食べられまいと取り返そうとしてる黒鋼。






「おーい、しゃおらーん」

「!」






このままじゃ小狼の分なんてすぐに無くなると思い、自分の世界へ旅立っていた小狼の名前を呼ぶ。小狼はその私の声でようやく旅から戻ってきたようだ。






「なくなっちゃうよ」

「はい」






小狼のお好み焼きの心配をしていたのは私だけではなかったらしい。ファイが新たにお好み焼きをお箸で刺しながら小狼に言った。






「てめ!放せ!」

「えーん黒鋼ケチー!」

「さっき一個丸呑みしたやつの言うセリフか!」






・・・・・・・店員さーん。お好み焼きあと三人前追加で。











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11.02.19