大広間に入って一番最初に目に入ってきたのは沢山の飾りつけ。廊下にあった様なランタンやカボチャの置物等もあった。そして次に目に入ったのは女の子、の塊。というよりは群れ。
「…何あれ…」
大広間はいつも出ている各寮の長テーブルや職員用のテーブルは無かった。その代わり十人程が座れる丸いテーブルが沢山置かれていた。その中には料理等が乗っているテーブルもある。
その大広間の中心ら辺。不自然な程に集まっている着飾った女の子達。あれは殆どがスリザリン生だった筈。スリザリン生の資料の中で見た顔が沢山居る。そしてその群がる女の子達の中心。其処にはかなりご立腹の様子のシリウス。だがその怒っている顔も格好良く見えてしまうのだから恐ろしい。
「…一年の時からあのモテよう…流石、ホグワーツ一のモテ男とリーマスに言わせた程の男だね…」
未来の世界でのリーマスはシリウスの事をそう言っていた事があった。本人はそれをかなり鬱陶しく思ってたみたいだけどね、と面白そうに学生時代の事を話してくれた時の事だ。あの時はまあちゃんとした格好をすれば美形なのだから世の女の子達は放ってはおかないだろう、と思っていたがこれ程とは。
と、その時バチリ、とシリウスと目が合ったが直に逸らされてしまった。やはり今までと同じ、という訳にはいかないか。
「」
名前を呼ばれて振り向くと其処には両手にカボチャジュースの入ったグラスを持ったジェームズが。その内の一つを差し出されたはお礼を言って受け取った。
「…今ね、シリウスと目が合ったんだけど露骨に逸らされちゃった…」
苦笑いしながらそう言ったにジェームズは、大丈夫さ、と言葉を返して続けた。
「シリウスは今ちょっと女の子に囲まれて、それで不機嫌なだけだから。別にが嫌いになったとかじゃないと思うよ」
「…女の子に囲まれて嫌な男の子なんて珍しいよね」
「まぁ、シリウスは望んでない事をされてるわけだし。でもま、珍しいって所は否定しないでおくよ」
ジェームズのニヤリ、と笑って言った言葉に自然と笑みが出てきた。そしてふとジェームズの奥の方にリーマスが見えた。最近は薄れ掛けていたあの仮面の笑顔がまた色濃く出ていた。
リーマス、ごめん。
ポンポン。
「?、」
頭を何かで優しく叩かれた。リーマスにやっていた視線を目の前の人物に戻すと、ジェームズの手が自分の頭の上に乗っている事に気付いた。
「大丈夫」
にっこりと、そう言われた。まるで自分の心を見透かされたみたいに。否、きっと自分が顔に出ていたに違いないのだが、今の言葉はじわじわと罪悪感で一杯の自分の胸の中に暖かく染み込んでいった。
「僕等は今まで通りの僕等だから。だからもいつも通りに。ね?」
まるで小さな子をあやす様に優しく言われた。けれど今はそれが素直に嬉しかった。自然と心の底から優しく笑えた。
「…ありがと」
「どういたしまして」
ジェームズは凄い。何が凄いのか口では説明出来ないけれど、兎に角凄い。この人の周りに自然と人が集まってくるのが解る気がする。皆自分と同じ様に彼の持っている"何か"に惹きつけられるんだ。
「…あ、」
偶然にも入口の方を見て、見つけた。漆黒の髪に青白い顔。仮装パーティーだというのに何故か制服で、そのネクタイや来ているローブは緑と銀のスリザリンカラー。
「?どうかしたの?」
そう言っての視線の先を追おうとしたジェームズの頭を、は思いっきりセブルスとは反対方向へと向かせた。今のに音をつけるとしたらグキッ、というのが一番相応しいだろう。
「ななななな何でもない!!」
「い、痛い………」
「あ、わ、ごめんっ」
直感的にジェームズにセブルスの姿は見せてはいけないと思った。セブルスを発見すればまた悪戯という名の虐めをするだろうから。
そういえば、此処に来てからもう二ヶ月は経つと思うが、未だにスネイプとは一言も言葉を交わしてはいない。チラリ、とジェームズに気付かれないようにセブルスの方を見れば誰かを目で追っていたが、この人込みだ。誰を目で追っているのかなんて解る筈がなかった。
「(さて、と)」
ディアミスにもジェームズにも励まされたのだ。そろそろ落ち込んだ心を復活させねば。この後に控えている大きな悪戯の為にも。
どうか、この悪戯で彼等の憂いが少しでも取り除けますように。
Snow White
黒猫は毒りんごで悪戯をする
「さぁ、諸君、就寝時間。駆け足!」
パーティーが終わり、いつもは校長席が置いてある筈の場所に立ちダンブルドアが解散の合図をした。と、その時。ダンブルドアの頭の上で可愛らしいポンッ、という音を立ててこれまた可愛らしいオバケが其処に現れた。後に続き、大広間のあちこちでもポンッ、ポポンッ、という音の後に続々とオバケ達が現れた。
その表情は様々で笑っているのもあれば泣いているものも、はては寝ているものまで。なんとも心和むオバケ達だ。
「これ何だろ?」
「さあ、解らないわ。けど凄く可愛いわ!」
「…突付いちゃえ」
近くでセルフィーナ達の声が聞こえた。ふと其方に視線をやればベルが持っていたフォークで寝ているオバケを突付いているのが見えた。彼女達と同じようにたった今現れた正体不明の可愛らしいオバケ達に対しての疑問の言葉を聞きながら、は気付かれない様に口端を上げた。そして気付かれないように杖をもう一度振る。
「あ…」
「行っちゃったね」
「…何か集まってないかしら、あの子達」
大広間のあちらこちらに居たオバケ達。それが徐々に大広間の天井の中心に集まってきている。そして段々と、大きなオバケの形へと合体していく。遂に最後の一体となった時に事は起こった。その一体はいきなりパンッといって光を放ち破裂した。その光が弱まってくると、最後の一体が浮いていた場所には黄金に煌く文字があった。そこには、
"ハロウィンの合言葉は?"
と書かれていた。辺りは静寂に包まれ、生徒達だけではなく先生達も煌く文字と今や合体して大きくなったオバケを見上げていた。
「…トリック・オア・トリート?」
一人の生徒の呟く声が静まりかえった大広間全体に行き渡った。その生徒の声に答える様に、巨大オバケの笑っている形の口からポンッといってお菓子が二、三個その生徒のもとまで落ちてきた。それを見ていた他の二、三人の生徒がまた同じ言葉を呟く。
「トリック・オア・トリート?」
「トリック・オア・トリート…?」
ポポンッと今度は二人分のお菓子が口から出てきて、呟いた生徒達のもとへ落ちていった。一瞬の間の後に、大広間は『トリック・オア・トリート』の声で溢れ返った。お菓子は飴霰と生徒達に降り注いでいる。
「(これで、フィニッシュ…!)」
は先程同様に無言呪文で小さく杖を振った。オバケはまたも膨らみ始め限界がくるとバンッと弾けた。オバケの中に残っていたお菓子がバラバラと落ちていく。そして空中にはまたも煌く文字が。今度はその文字の周りを魔女のシルエットや蝙蝠のシルエット、煌く小さな星などが飛んでいた。
"Happy Halloween!!
今宵が貴方にとって特別な日になりますように"
歓声が上がった。生徒達は皆それぞれ腕にお菓子を沢山抱え込んで嬉々とした顔で文字に向かって拍手や口笛等を吹いていた。
悪戯成功――。
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08.08.08 修正完了