この頃よく思う。どうしてボクはグリフィンドールになったんだろう。


勇敢たる者が入るグリフィンドール。


ボクには合わないのに。どうしてだろう。どうしてボクはこんなにも弱いんだろう。ジェームズ達はあんなにも強いのに、何で僕だけ。






「よぉ、ペティグリュー」






誰かがボクを呼ぶ。スリザリンカラーのネクタイに蛇の印の入ったローブ。数は五人。その中の何人かはここ最近で顔を覚えるようになった人達もいる。毎日呼び出されていれば幾らボクだって覚えると思う。






「…な、何?」


「ちょっと来いよ」






五人の中の一人がボクの腕を有無を言わさず引っ張り人気の無い方へと連れて行く。その顔はニヤニヤと笑ってる。その後ろには残りの四人が。その四人の顔も今ボクの腕を引っ張ってる人と同じ。

そして誰も使っていない空き教室へと投げ込まれた。



ああ、まただ。



どうして。



どうしてボクを傷つけるの?



どうして笑ってるの?



どうしてこんな事するの?





どうしてボクは、抵抗しないの――?







「お前さあ、マジで抵抗しないのなー。ま、俺達にとってはそっちのが楽でいいけど…よ!」


「っ…、」






ドカッと誰かの足がボクのお腹に蹴りを入れた。




抵抗しないのはきっと、怖いから。これ以上傷つくのが怖いからなんだ。痛いのが怖いから。


解ってるんだ。
抵抗すればもっと酷い事をされる。もっと痛い目に合わされる。


解ってるんだ。
大人しく我慢していれば、今この場で受ける痛みはいずれ止む。これ以上酷くなる事はない。


解ってるんだ。
このままじゃ、毎日こんな思いするくらい。






「うっわ、だっせー。こいつ泣いてやがる」


「はは、抵抗もしないでただ泣くだけかよ」


「マジ見ててうぜー」






でも、皆には言えない。だって、言ったらきっと迷惑を掛けるから。


なんて、そんな聞こえの良いものじゃないんだ。本当はボクが怖いだけなんだ。

皆に言ったら、きっと助けてくれる。彼等は優しいから、ボクを守ってくれる。でも、そうする事によってこの状況はもっと悪くなるかもしれない。彼等が見えてないところでボクはもっと酷い仕打ちを受けるかもしれない。

そんなの嫌だ。


怖い、怖い怖い怖い。

痛い痛い痛い。

嫌だ嫌だ嫌だ。


何で、何でボクなんだろう。ボクは君達に何もやってはないのに。何でボクにこんな仕打ちをするの?


この人たちがにくい。でもそれ以上に、何もやり返せない自分が、凄く嫌だ。




ボクは薄暗い教室に光が差すのを感じた。











Snow White
小人達の気持ち











リーマスは中の光景を見て一瞬の間絶句した。五人のスリザリン生に囲まれているグリフィンドール生。リーマスは直にそれが誰だか解り、急いで駆け寄り声を掛けた。






「ピーター!ピーター、大丈夫!?」


「…ぅ…っ……リー…マス…?」






どうやら命に別状はないようだ。その事にリーマスは安堵の息を漏らした。そして直に頭上で嫌らしい笑みを浮かべているスリザリン生を睨みつけた。






君達、最近ピーターを虐めてるけど…どうしてこんな事するんだい?」


「見ててムカツクんだよ。トロいし、オドオドしてるしな」


「…君みたいな人よりピーターはよっぽど良い人間だよ」






ダメだ。これ以上深く関わっちゃいけない。

僕の中で警報が鳴ってる。これ以上関わるなと。

そして、もう手遅れなのだと。






「何だと…」


「聞こえなかったの?虐める事しか頭に無い君達より、ピーターの方がよっぽとマシだって言ったんだ」






自分で引いた境界線の筈なのに。その境界線を超えるなんて絶対にダメなんだ。

でも、もう遅い。手遅れな気がする。この部屋に入った瞬間から。否、あるいはもっと前から感じていた。






「…リ、リーマス…ボクの事はいいか…」


「いいわけないだろ!」





いいわけない。僕だって君と同じだから。思う事は違えど、境遇は同じだ。狼人間という事が知れて、回りの人たちには散々虐められた。その度に僕は我慢してたんだ。今の君は僕と同じにみえる。






「そもそも何で何もやり返さないのさ!君にだってそのくらいの力はあるだろ!?


「ただやられてるだけなんて、人形と同じじゃないか!」






そう、人には簡単に言える。自分の事は棚に上げて人には自分が出来もしない事を要求するんだ。僕は最低の人間だ。それでも、言葉が止まらない。






「どうして何も言わなかったんだ!抵抗すればよかったのに!どうして何もしなかったんだよ!」


「…っ、恐かったんだ!反抗すればもっと酷く虐められると思った…」






ピーターの青い瞳から堰を切ったように涙が零れ落ちた。






「ボクはリーマス達みたいに強くなんてない!だから恐かった!立ち向かう勇気が無いんだ!」


「だったら何で僕等に何も言わなかったんだ!」


「恐かったからだよ!!皆に助けを求めたら助けてくれるかもしれない…。でも、皆が見ていない所でボクは皆に助けを求めた事でもっと酷い虐めを受けるかもしれない!そう思ったら恐かったんだ…っ」


「…ピーター」






リーマスの呼びかけにピーターの肩がビクッと震えた。俯き、手は自身のローブをギュっと強く握っていた。リーマスはピーターの震える肩に優しく自分の手を置き微笑んだ。






「…出来たでしょ?」


「……え…?」






リーマスの脈絡のない言葉に、何の事か解らず顔を上げた。其処には優しく微笑むリーマスの顔。






「反抗、出来たでしょ?立ち向かう勇気が無いわけじゃないよ。だってピーターは今ボクの言葉に反抗してきたでしょ?だったら、今度はそれを違うものに向けてみたらどうかな?」


「…リーマス…」


「…さっきから黙って聞いてれば…ウゼェんだよお前等!」






リーマスの後ろにいた金髪のスリザリン生が二人に向かって拳を振り上げた。と、その時、






「ウゼェのはお前等だろ」






声と共に、ドカッと何かがぶつかる音が教室内に届いた。











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08.08.02 修正完了