サクラの数日と桜の一生
見た事もない花の木の枝に、これまた見た事ない女が座っていた。
「こんにちは」
「・・・お前、そんな所で何やってんだ?」
挨拶してきた女に挨拶をし返すわけでもなく、俺の開口一番はその言葉だった。
たまたま今日に限って何故だか姿くらましをせずに騎士団の本部まで向かっていて、たまたま桃色の花弁が風にのって俺の前を通り過ぎていったから俺は、たまたまその花弁の飛んできたであろう方向を向いた。ら、この木と女を見つけた。
「何って・・・別になにも?貴方こそこんな所でどうしたの?ここには普段あまり人が来ないんだけど」
「別に、今日はたまたま道を変えて歩いてただけ」
「ふーん・・・ねえ、貴方名前は?」
そう女に問われて俺は考えた。万が一にでもこいつが闇の陣営の奴だったら。女の死喰い人は滅多にいないと思うが用心に越したことはない。一見普通の(いや、よく見れば結構可愛い)女だが、外見に惑わされてはいけない。今の世の中、信用できるのは自分の仲間だけだ。
「・・・人に名前を聞く時はまず自分からだろ?」
「あ、そう返してくるかー。意外とヤな奴ー。ま、いっか。私は。この桜の木の精霊やってまーす」
「・・・は?」
今ので俺の頭の中にあった、こいつが死喰い人説は一瞬で無くなった。と同時にこの女は頭がどうにかなってしまっているんだろうという考えが生まれた。
「って、ちょっと!何よそのイタイものでも見るような目は!」
「・・・早めに聖マンゴに行くことお勧めするぜ。それじゃ」
そう言って俺は女と木に背を向けて歩き出した。生憎と変な女とは関わりになりたくない。俺は当初の目的地であった騎士団の本部への残り僅かな距離を歩いた。
「やあ、シリウス」
「よう。ハリーの調子はどうだ?」
「元気に決まってるじゃないか。今頃リリーと一緒にお昼寝の時間だ。そういえば聞いたかい?騎士団に新たな仲間が加わったらしい」
「まじかよ?」
本部に入った俺に一番にそう声を掛けてきたのはジェームズだった。
最近は死喰い人達の勢いが増していて、ここ数日だけで騎士団のメンバーの何人かがもう亡き者にされていた。そんな時期に恐れずに騎士団に入ってくる奴がまだいたとは。何とも喜ばしい。
「今いるのか?」
「いやー、それが・・・」
「まだ一度も本部には顔を出してないみたいなんだよね、その人」
ジェームズの後ろからリーマスが歩いてきて、ジェームズの続きを引き継いでそう言った。
「本部に顔を出してない?」
「うん。一昨日くらいに入団したからもうそろそろ顔を出してもいい頃だと思うんだけど・・・」
「そいつ、信用していいのかよ?もしかしたら敵に服従の呪文かなんかかけられてんじゃねえか?」
「それだったらダンブルドアが見抜けない筈がないだろ、シリウス。でもリーマスの言う通りそろそろ顔を出してもらわないと疑うのも無理はないよね・・・」
まあ、とりあえず待ってみようか、というジェームズの発言でその話題はお開きとなった。
「(・・・まだ居た)」
「あ、昨日の名無しの権兵衛」
「ナナシノゴンベエ?俺の名前はそんな変な名前じゃねえよ」
なんとなく今日も昨日と同じ道を通って本部に向かっていた。途中、昨日の変な女がいたあの木の所までくるとまたあの女がいた。二日も続けて同じ場所に座っている。まるであそこが定位置であるかのように
「だって名前教えてくれなかったじゃない。名前が解らない人の事ってそう呼ぶのよ。あーあ、こっちは教えたのにさー。あれはちょっと酷いんじゃない、シリウス・ブラック」
「っ…、お前…!」
「わっ、ちょっと落ち着いて落ち着いて。そんな構えなくても何もしないって!」
「こっちが名乗ってもねえのに人の名前知ってる奴がよく言うぜ」
「精霊なんだから名前くらい知ろうと思えば知れるわよ」
「お前まだそんな事言ってんのかよ。そんなもんで俺が騙されるとでも?」
「嘘じゃないってば。もー、どうやったら信じてくれるわけ?」
女は腕を組んで木の枝に座りながら、地上にいる俺を少し眉根を寄せて困ったように見下ろしている。こいつ、本当に頭大丈夫かよ。
「どうやっても信じねえよ。お前、死喰い人だろ」
「はあ?何で私があんな趣味の悪い仮面つけなきゃならないのよ・・・って、待って待って!」
俺はぶつぶつと何か言っている女に向かって杖を振り上げた。
「あ、そうだ。ほら見て!」
そう言って女は左腕の袖を捲った。露になった女の左前腕には死喰い人にはある筈の闇の印が無かった。
「・・・無い。って事は本当に・・・?」
「だーかーらー、さっきからそう言ってるじゃない」
「お前なー、『私はサクラの精霊ですー』なんて頭のおかしい発言してる奴の言葉を信じれると思うかあ?」
「何をー!私は本当の事言ってるだけだもん。騎士団員の貴方なら信じてくれると思ってたのになー・・・」
「(こいつっ、俺が騎士団員だと解ってたのか)・・・お前、やっぱり死喰い人じゃなくても向こう側の人間だろ」
「わっ、だから構えないでってば!」
一度は降ろした杖を再度向けると女は体の前で手をぶんぶんと振ってタンマ、タンマ!と声を大にして言った。構えるなっつったってこんな怪しい奴、見過ごすわけにはいかねえだろ。もしかしたらヴォルデモート側のスパイかもしれない。
「私は闇の陣営にはついてないし、あいつらにつけ、なんて言われてもお断り。貴方の事を知ってたのは・・・」
「?、」
ザアッと風が吹いてサクラの花弁が待った。それと一緒に漆黒の俺の髪と、俺と同じ髪の色をした女の長い髪も風に揺れた。女は舞っているサクラの花に手を伸ばす。まるでそうして花弁と話すかのように。
「この子達が良い噂から悪い噂まで、幅広い情報を風にのせて運んできてくれるから」
その姿は心の底から綺麗だと思った。否、神秘的の間違いだろうか。サクラの花弁が舞う中に座る女は本当にサクラの精霊の様。
その時、急に女は顔を顰めた。まるでサクラの花弁が今しがた悪い報せを運んできたように
「・・・おい、」
「・・・私は"おい"なんて名前じゃないんだけど?」
「・・・、」
「はい、よく出来ました」
「お前喧嘩売ってる?」
「そんな事よりシリウス。死喰い人が魔法法執行部の部長のバーティミウス・クラウチに服従の呪文を掛ける計画をたててるそうよ」
「何!?」
は掌にあったサクラを、また宙に解き放ち俺を見た。
「急がないとクラウチ氏が奴等の手中に落ちてしまうわ」
そう聞き終わらないうちに俺は昨日と同じようにとサクラの木に背を向けて走り出していた。
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08.08.12