私は一体ここで何をしているんだろう。






「何よ!ちょっと顔と頭がいいからっていい気になっちゃって!」






そうだ。薬学のレポートの参考資料を探してたんだった。






「初めから俺は何も言ってない。そっちが勝手にあーだこーだ喋って勝手に恋人同士だとかなんとか言い触らしてただけだろ」






何も図書室まで来て、こんな修羅場を見に来たんじゃない。(っていうか片方は読んでる本から目線すら上げないんですけど)






「な、何よ・・・!ブラックの家を捨てたあんたになんかもうこれっぽっちも興味なんて無いわよ!!」






そう言うやいなやスリザリンの女子生徒(多分先輩)は、相手の読んでいるであろう本(こんな時によく読んでいられるな)をバシッと叩き落として走り去って行った。






「(今、走り去って行くときに一瞬睨まれた・・・?いやまあそりゃそうよね。あんな現場目撃されたと思ったらそりゃ睨むわ)」

「たく、これだから女はめんどくせー・・・・・お、じゃん」






お気の毒に、と女子生徒が走り去って行った方向を眺めていると、後ろから声がかかった。私はその声に溜め息をつきながら振り返った。






「どうも。別れ話しならもっと他の場所でやってくれない?」

「何?もしかして盗み見てたわけ?レイブンクローの秀才とも言われてるミス・が?」






ニヤニヤと見てくるこの男。グリフィンドールのジェームズ・ポッターと並んで、いつも成績のトップにいる男。
何ですか。喧嘩売ってますか。どうせ私はいつもあなた達の下ですよ。
本当、ムカつく男。






「レポートの資料探しにきてみたら、その本がある場所であなた達が痴話喧嘩してたものだから。いつ終わるのかと思ってたわ」





ツンとした態度で返事をし、ブラックの横を通り過ぎ目的の本がある場所まで行く。






「悪ぃ悪ぃ。そんな怒んなって。今のはほんの冗談だよ」

「(・・・冗談だとしてもムカつくっての)」






シリウス・ブラックという人間は私の苦手とする人間の一人だ。入学当初からその家柄と外見に、寮を問わず女子生徒達に黄色い声で騒がれていた。男子生徒達も何とか名門家の長子に取り入ろうと必死だった。
別にここまでは何の問題もなかった。凄い人気っぷり、とまでしか思わなかった。
問題はその先。






「(えーっと・・・"き"・・・"き"・・・・"希少な薬学"はーっと・・・)」

「何か探してるなら手伝おうか?」

「いい」






こうやって話しかけてくることだ。
一、二年の時まではお互い目も合わせたことなかった。
けれど、どうゆう訳か三、四年生になった頃に話しかけらるようになった。
そして五年生の現在。今がピークと言っても過言ではないほど毎日のように彼は私へ話しかける。

その度に私は女子生徒から睨まれ(大半はスリザリン)、平穏な日々が失われていってる。






「いいからいいから。で、何探してんだ?」

「・・・・・(無視)」

「おーい、ー」






この男は本当に空気が読めないと思う。
私がこれだけ素っ気無くし、近付くな喋りかけるなという空気を発しているのにも関わらずお構いなしに話しかけてくる。


そして私が彼を苦手な理由はもう一つ。






「お前、リーマスとは普通に話すのに何で俺に対してはいつもそんなんなわけ?」

「リーマスは寮は違えど同じ監督生だもの。話すのは普通よ。それにあなたと違って、過激なファンが彼にはいないしね」






それは、彼の性格だ。
入学当初は冷め切っていた態度も、日に日に明るさを出し始めた。(多分いつも一緒にいるジェームズ・ポッターの影響)
ただ明るい性格ならいい。
けど私の隣で、本棚に片腕を寄りかからせて立っているこの男は言動が、俗な言葉で言うとチャラいのだ。(少なくとも私にはそう聞こえるし見える)

どんな女の子が近付こうと、来る者拒まず去る者追わず。とっかえひっかえにブラックと並んででる女子生徒の名前は変わる。
至極真面目で平々凡々な私にはそれがまた癇に障るのだ。






「・・・お前、いつからリーマスのことファーストネームで呼ぶようになったんだよ?」

「あなたには関係ないで、しょ(・・・・)」






ブラックの方には見向きもせず、ずっと本の背表紙を追っていた指を止めてしまった。
だって、






「(・・・・無い・・・)」






恐らくここに仕舞われていたであろう本。それはきっと私の探していた本。(ABC順に並んでいるんだから絶対そう)
借りられてしまっているのか。珍しい。こんな奥まった場所の本を借りる人なんてそうそういない・・・・・

そこまで思って私ははっとした。






「・・・・(まさか・・・)」






ゆっくりと隣にいるブラック・・・の本棚に寄りかかっていない方の手を見る。そこには、さっき女子生徒に叩き落とされた本が。しかも表紙には私の探していた本のタイトル。






「それ・・・」

「?、もしかして探してたのってこの本?お前、こんなん読むの?」

「(大きなお世話よ。自分だってさっき読んでたじゃない。あんな状況だったていうのに視線もあげずに)そうよ。読まないなら貸してくれない?」






ようやく私は今日初めてブラックと向き合った。長身で、整った顔。サラサラの黒髪。改めて見ると女子生徒に人気があるのも頷ける、と思う。(まあ問題は中身よね)






「いいぜ」

「どうも」






差し出された本を受け取ろうとした瞬間、






「・・・・・・何?」






ブラックはその本を引っ込め、私の手の届かない場所まで持ち上げた。(私にもうちょっと身長があれば・・・!)






「何でリーマスのことをファーストネームで呼んでるのか教えてくれたら渡してやる」

「・・・・・(子供かこの男は)」






別に、リーマス・ルーピンをどんな風に呼ぶかなんてこの男には関係ないはず。(いや、絶対ない)
友達を取られたようで悔しいのだろうか。






「別に、あなたのお友達をとろうとかそんなこと考えてないから安心して。ただ昨日、リーマスから『友達なんだからファーストネームで呼び合わない?』って言われたからそうしてるだけよ」

「・・・・ふーん(あんにゃろー、絶対俺の反応見て楽しむ気だな)」

「話したんだから本、貸して」

「・・・・・・・・・ダメ」






はあ!?
思わずこう大声を出しそうになり、何とか抑えた。
何だ。何なんだこの男。考えていることが全く解らない。
はっ、所詮秀才様の頭と万年凡人の私の頭とは比べ物にならないくらい違うんですねー、あーはいはい(←投げやり






「こんなん読むより、俺が教えた方が絶対解りやすいって。次の授業に提出する薬学のレポートだろ?俺が教えてやるよ」

「(何で参考書より自分の方が解り易いとか言えちゃうわけ)結構よ。それならまだセブルス・スネイプに教えてもらった方がマシね」






スネイプは薬学の授業ではブラック達にひけをとらない成績だ。あまり人と絡まないタイプなようで話したことは片手で数えられるほどしかない。彼もまたスリザリン生特有の純血主義らしいが、ブラックに教えてもらうよりはスネイプに教わった方がまだマシだ。(後の自分への女子からの被害を考えると)






「・・・・・・スネイプ?お前、あいつのこと好きなのか?」

「・・・あんたね、何でそれだけで私がスネイプを好きだなんて思うのよ」






別に好きじゃない。単なる例え話よ、と言葉を続けた。






「そっか(あー吃驚した)」

「(何でちょっとほっとしてんのよ)」






スネイプを好きなのかと聞いてきた時の目は一瞬後ずさりをしてしまいそうなくらい凄んでいたのに、今は逆に凄く安堵の色が見える。本当、この男の考えていることは解らない。






「それより早くそれ渡して」

「だから俺が教えてやるって」

「周りの女子の反感が無いのであれば教わるわ」






絶対無理だろう、という意を込めて鼻で少し笑いながら言うとブラックは何やら考え始めた。本を持ってない方の手を顎に当て、何やらもの凄く真剣に考えている。時折『そうか、先ず俺の周りの女か』とか『ジェームズ達にも手伝ってもらうか』と呟いている。ちょっと待て。考え始める前にその本貸して。っていうか絶対無理だと思ったから言ったことを可能にしようとしてんじゃないわよ。私は絶対あなたになんかに教わるつもりはないわよ。

私は溜め息を一つ零した後、クルッと後ろを向いた。






「?、?」

「アクシオ、"希少な薬学"」

「うわっ」






ローブから素早く杖を取り出し、肩越しに呪文を唱えると、ブラックの手を離れ私のもとへと来る目当ての本。たっく、この本一つ手に入れるのに何でこんな無駄な労力消費をしなきゃいけないのよ。






「お前・・・それ反則じゃね?」

「魔女だもの。魔法を使って当然でしょ?」






振り返えり、口角を上げながら言う。ブラックは何か言いたそうにしてたけど、そんなの関係ない。






「それじゃ、本も手に入れたことだし失礼するわ」






やっと談話室に戻れると思いながら、ブラックの横を通り過ぎようとした。そう、通り過ぎようとしたのだ。なのに何故か私は腕を捉まれその場に足を止めざるおえない状況に。片腕だけなのだが、振りほどこうにもびくともしない。






「何?」

「アクシオ、"希少な薬学"」

「なっ!」






その瞬間、私の腕の中から本は消えた。その代わり、ブラックの杖腕の中にその本はあった。






「ちょっと!」

「魔法使いなんだから魔法使うのは当然だろ?」

「〜っ!」






この男は・・・!どこまでもいけ好かない男ね、シリウス・ブラック!






「着いてこいよ。一般生徒が知らない場所があんだよ。そこでレポートやろうぜ」

「はぁ?『教えてやる』っていうあれ正気だったの?絶対嫌」

「ここから近いし、行く時にそんな人に見られないぜ」

「あなたねー、人の話し聞いてるの?」

「まあ心配だったら少し離れて着いて来いよ」






んじゃ行くぜ、と言ってブラックは歩き始めた。






「ちょっ」






ちょっと待って。本当に待って。その本無かったら私はレポートできないんだってば。何で私がブラックと頭つき合わせてレポート書かなきゃいけないわけ?っていうか今日何かかなり無理やりな絡み方じゃない?






「(・・・・・・ちょっと落ち着け私)」






レポートは絶対提出。そのためにブラックとレポートを書かなくてはいけない状況になってしまった。レポート完成させないと今回は減点するって言われてるし(何で今回に限って減点なんてするのよスラグホーン先生・・・・)。
ブラックを嫌がって減点されるのは絶対に嫌。そうなると、少しの間我慢してブラックとレポートを書けば済む話し、になるのか。






「あーっ、もう!」






私は意を決してブラックの後に続いた(ただし結構な距離をあけて)。

















のいけかない

(・・・・何!?この人本当に参考書より解り易い説明なんだけどっ)(どうやって俺の周りの女ども蹴散らすかなー)





















11.01.06

企画サイト様に出そうとしたボツ作品。
シリウスが家出した後の話し。