太陽の暖かさも





雪の冷たさも





風の感触も





雨の匂いも





貴方達はもう感じない











きたくったら、処に











「拷問だ…」






不死鳥の騎士団本拠地のブラック家の厨房でこの家の主、シリウス・ブラックはそう呟いた。
彼が大切に思っている名付け子ハリーは一ヶ月前にホグワーツへと友人と共に戻っていった。






「そんなに嫌?」

「い・や・だ」

「まぁ、シリウスに引きこもりなんて無理だろうけど」






シリウスの前に机を挟んで座っていたはクスクスと笑う。
その反応にシリウスの不機嫌さは直るわけがなく。むすっとして机に頬杖をついた。
そんなシリウスの反応を見たはふと考え込み、ある一つの案を持ちかけた。






「ねぇ、シリウス。そんなに嫌なら外に行こっか」

「それが出来たら苦労はしない…」

「ようはシリウスだって気付かれなきゃいいんでしょ?犬になって」

「犬の姿はとっくに死喰い人にバレて…」

「いいから。外に出たいでしょ?」






その一言に後押しされたのもあり、シリウスは椅子から立ち上がった。
シリウスの体がだんだん小さくなり、後に残ったのは大きな黒犬。
は黒犬のシリウスに杖を向けた。






「ワフ…!?(!?)」

「リダクション、縮小せよ」






の構えた杖から薄青い光が出て、シリウスを包み込んだ。
すると一瞬のうちに黒犬がいた場所には小さな黒い子犬がいた。
シリウスはいきなり目線が縮んだ事もあり自分の体を調べようとした瞬間に抱き上げられ、また杖を向けられた。






「ミューテイション、話せ」






今度は一瞬、明るい光が杖先から出ただけだった。






、一体何して……って、何で喋れてるんだ!?」

「うん、成功成功。頑張って開発しただけあるわね」

「開発って……今の魔法お前が作ったのか?」

「まぁね」






の腕に抱かれた黒犬が人語を喋っている。
傍からみれば、おかしな光景の今の状況。
だが、生憎彼等以外にこの場に人はいない。






「じゃ、行こっか」

「行くって……何所にだ?」

「着いてからのお楽しみ」






シリウスがそれ以上何かを言う前にはテーブルの上に置いてあった紙袋の中から、何かを取り出し直に姿くらましをした。


















「ここは……」

「今日は命日だからね」






ゴドリック谷の小さな丘。
シリウスとの前には一つの墓。
そこには《ジェームズ・ポッター》、《リリー・ポッター》と記されていた。






「……誰か先に来たみたいだな…」

「きっとリーマスだよ。二人の好きな花を知ってるのは悪戯仕掛け人と私だけでしょ?」

「……そう、だな…」






二人の墓の上には真っ白な百合の花。
生前、彼等が一番に好んでいた花。


は腕に抱いていたシリウスを地面に下ろし、持ってきたものを百合の隣に供えた。










「…紅い花、か?」

「うん。彼岸花って言うの」






真赤な花。
紅く、赤い、彼岸花。










「…彼岸花は日本にしか咲かない花じゃなかったか?」

「日本の知り合いに頼んでおいたの。今朝届くようにね」

「彼岸花の花言葉って…確か……」

「あれ?シリウス知ってるの?」

「学生時代、ジェームズのやつによく付き合わされたからな」






そうだ、一時期彼等、悪戯仕掛け人はジェームズに付き合わされて花言葉を専門の本の端から端まで調べていた。
あれは七年生の時のリリーの誕生日近くの日。
リリーへのプレゼントと共に、花をあげたいと言ったジェームズがリリーに合った花言葉の花を見つけようとしていた時期だった。
結局いい花は見つからず、ジェームズはリリーに彼女と同じ名前の百合の花をあげていた気がする。
は遠い記憶を思い出しながらクスクスと笑いながら『そんな事もあったね』と呟いた。






「彼岸花の花言葉は…《悲しい思い出》、じゃなかったか?」

「それもあるけど……」






は一本、彼岸花を手に取り、空に翳す。
青い青い空に彼岸花の紅はどこか不釣合いな気がした。






「彼岸花の花言葉は………《また会う日を楽しみに》……」






私はまだ、二人が死んだ事が心の何所かで嘘だと言いたいんだ。
だって、辛くて悲しくてどうしようもない時に此処に来るから。
此処には二人がいるから。
ジェームズは私の話を聞いてくれて、リリーは私を慰めてくれて……。


でも、解ってる。
此処に来ても、もうあの時のように二人は私の話を聞いてくれない。


それでも、そうだとしても…………彼等は此処にいるから。






………」






体に感じた暖かさ。
それがシリウスのものだと感じるのにそう時間は掛からなかった。

あぁ、私は今、シリウスに抱きしめられてるんだ…。






「っ…シリウス……縮める魔法かけた意味、ないじゃない…」






答えは無かった。
その代わりにシリウスの腕の力が強くなった気がした。


《大丈夫だ》って、言ってるような気がして。
目を瞑ると、シリウスがいて、隣にはジェームズとリリーがいつものように慰めてくれてるような気がして――






「…っ……今度…っ……ハリーも連れて、また此処に来よう…ね……っ」

「そうだな。ジェームズもリリーも喜ぶだろうしな」






あの子はどんな顔をするんだろう。
きっと一度も両親の墓にはきた事がないだろうから、驚くかな?




また、来るからね。

今度は貴方達の最愛の息子も連れて来るから…。



















涙に霞んだ瞳に映ったのは、青い空と紅い花。

どうか、私達の声が彼等に届きますように―――


























(原作五巻のハリー達が学校へ戻った辺り。いつ書いたかも解らないものだったりします←)


お題提供:花涙