運命を変えるって、簡単ではない事だけどでも、出来るって思ってた。
『貴女に、運命を変えることなど出来ません』
あの御方はそう言ったけど、私はそんな事はない、て言った。運命を変える事に怖さなんか感じた事はなかった。
「(…私は、間違ってたのかもしれない…)」
私は自分で運命を変えようと思ってた。でも、自分が変えようと思った運命だけが変わるんじゃないという考えが浮かばなかった。過去に、身をもって経験してることなのに。
寮を出て、談話室へと降りた。ふと見た談話室の窓。そこから見えるのは流れる雲と丸い月。さっきまで降っていたであろう雪はもう止んでいた。
「(…満月、か…)」
今頃リーマスはあの屋敷で一人寂しく傷ついているのだろうか。助けたいとは思う。もうそろそろ見てみぬフリをするのも限界だ。
「(…でも、)」
怖い。そう思ってしまう私がいる。この何気ない行動でもしかしたらまた何かが変わるかもしれない。否、確実に変わる。
『私は、ジェームズ達に救われた』
未来の世界のリーマスはそう言っていた。そう、元々彼を暗闇から助け出すのはジェームズ達なのだ。其処に私は入ってはいない。此処で私が彼に救いの手を差し出してしまえば確実に運命は変わる。それは良い方向に変わるかもしれないが、その逆も有り得る。
「(…これは…)」
暖炉の前のソファの隣にある小さな机の上に、その本はあった。表紙に"魔法界の危険な生物"と書かれた本。一枚だけ付箋紙が貼ってある場所を開く。
「(…これは、ジェームズ達のか…)」
付箋紙の貼ってあった頁には人狼の事が書かれていた。この時期にこれを調べている者はきっと彼等しかいないだろう。しかもその頁には一枚の紙切れが挟んであり、"次の満月に決行"と綺麗な字で書かれていた。
「(…いくら長期休暇だとしても未だ寮には数人残ってるのにこの本を此処に置いておくって事は…)」
リーマスが定期的にホグワーツから抜ける事を知っている生徒が自分達の他にもいて、談話室に降りてくるかもしれないにも関わらず、此処に置いておくのには何か理由がある筈。もし、そんな生徒がこれを見たらリーマスの正体に感づくに決まってる。
すっと目を閉じて辺りの気配を探る。制御装置は着けていても、自分の周りの気配くらいならば探れる。
「(…感じる)…ジェームズ、シリウス、居るんでしょ?」
透明マントをジェームズが持っている事を考えれば、簡単に答えは導き出せる。彼等はさっきまで、此処でこの本を読んでいたんだ。この後の行動の為の最終確認、とでもいうのだろうか。其処に私が現れた。焦った彼等は素早くマントに隠れたが本までを隠すという考えまでには行き着かなかったのだろう。
数秒置いて微かな衣擦れの音の後に、自分の隣に人が現れたのが解った。視線は本にやったまま、気配だけを感じとった。
「あははー、バレちゃった。如何して気付いたの?」
「…何となく気配がしたから」
説明するのも面倒くさくなり簡潔に纏めてそれだけ言った。きっとこれだけでも納得してくれるだろう。
「…それにこのメモ、シリウスの字だったから」
挟まれてあったった紙切れを二人に見せるように手に取り上げる。よくシリウスのだって解ったねー、と感嘆の声をあげているジェームズに何となく、だけどね、と返しながら紙を頁に挟みなおして本を閉じる。そしてそのまま表紙に視線を止めたまま、顔を上げずに言った。
「…まさかとは思うけど、リーマスの所に行く気なの?」
「……何の事?」
「…この本を今日この日に見たら、リーマスが定期的にホグワーツを抜け出してる事を知ってる人間だったら殆どの人は解ると思うんだけど?リーマスは人狼、なんでしょ」
二人が顔を見合わせたのが気配で解った。どう説明しよう、とか思っているのだろうか。
「…まだ決定って訳じぇねえけど、多分そうだ」
「とりあえず明け方になったらホグズミートの端の方にある屋敷に行ってみようと思ってたんだ。情報によるとリーマスは其処にいるらしいからね」
何処からそんな情報を集めてきたんだか。まあ大方マダム・ポンフリーと誰かがリーマスの事を話しているのを盗み聞きしてきたのだろうが。
「…人狼…リーマスは、人狼…」
助けたいのに、怖い。どうすれば、どうすればいいの?リーマスに手を差し伸べるんだったら、ただ一言目の前の二人に"私も行く"とだけ言えばいい。
「…っ(だ、め…声が出ない…っ)」
怖い、運命を変えてしまうのが。もう"この世界"を壊したくはない。
「(…きっとあの御方はこれを予期してたんだ…)」
私がこうなる事を知っていたから言ったんだ。あの言葉は警告だったのかもしれない。
「…おいジェームズ、行こうぜ。暴れ柳の近くで朝方まで待つんだろ」
「え?ああ、うん、そうだけど…、大丈夫?顔が真っ青だよ?」
誰か、誰か私に教えて。私は、どうすればいいの。もう、自分の進む道が見えない。
「…放っておけよ」
「シリウス?君何言って…」
「そいつは他の連中と同じなんだよジェームズ!リーマスが、自分の友達が狼人間だって知った途端、態度を変える。あいつを疎外する奴等と一緒なんだよ!そいつは只たんにリーマスを怖がってるだけだ」
リーマスを怖がる?何、言ってるのシリウス。私がリーマスを怖がる訳ないじゃない。それに、私はきっと人狼さえ恐れはしない。悪名高いフェンリール・グレイバックも恐怖の対象じゃないと思う。私の力は彼より上だし、何より私は空白の姫だから。だから噛まれてもそれ以上の心配はない。だって空白の姫は、
「…行こうぜ、ジェームズ」
「…、気分が悪いなら部屋に戻ってた方がいいよ」
二人の歩き出した気配を感じて今まで俯いていた顔を上げる。
「…あ…私も…っ」
怖がるな。一言、一言言えばいいんだ。"私も行く"と。此処で怖さに負ければ、それこそ運命に負けたのと同じような気がする。そんなの絶対に嫌だ。
でも、此処で私が行く、と言えばその後はどうなる?リーマスは救われるかもしれない。でも、他の誰かは?私のその行動によって望んでもいないのに誰かが死んでしまったら?
「…っ、来る必要なんかねえよ!」
ドクンッ
胸が、痛い。心臓が大きく脈打ってる。
「…お前なんか」
ドクンッ
頭が、痛い。あの時の記憶が蘇る。
『お前なんか生まなきゃよかった!』
嫌だ、止めて。その先を言わないで。
「お前なんか必要ない!」
『お前なんて要らない!』
要ら、ない?
誰が?
決まってるじゃない、私がよ。
私なんて要らない。
私 は 必 要 な い 存 在 だ も の
「っ、いやああああああ!」
Snow White
お姫様の進むべき道
突然頭を抱え込んでうずくまったを心配してジェームズは直に駆け寄った。一方のシリウスはの豹変に固まった。確実にを今苦しめているのは、たった今自分が言った言葉だ。
「ちょ、、大丈夫!?」
「っ、…ご、めん…な、さい…ごめ、なさ…」
「、!落ち着いて!」
『…、ちゃん、は…っ…要らない…子なんか、じゃ…ない、よ…』
『また、会おう、な…』
ごめんなさいごめんなさい。
私が要らない存在だったから貴方を二度も死なせてしまった。私さえいなかったら貴方はもっと沢山生きれて、沢山の世界が見れたのに私が貴方の全ての可能性を奪ってしまった。
キイィィィン....
「…っ!?(これ、は…っ)」
突如襲ってきた耳鳴りのような音に反射的に耳を押さえる。
「(…ミュータントっ)」
何で、こんな所に。この音はミュータントが力を発動した時にだけ空白の姫に聞こえる音。いわば超音波みたいなもの。それがどうして。しかも、この大きさからするとそう遠くではない所にいる。
「(行か、ないと…っ)」
「え、!?」
身体を支えるようにしていてくれたジェームズを軽く押し返し、立ち上がって談話室の入口の方まで歩いていく。
「(…っ、こいつ…強い!)」
耳鳴りの威力が強い。頭に直接響いてくるような感じだ。こんなに強い音が出るのは、ミュータントの中でも限られてくる。威力の強い音が出るのは皆、強い力を持った者達のみ。
「(…ちょっとくらいなら、大丈夫…だよね…)」
制御装置を着けたまま転移の術を使うなんて事はした事がないけれど、今は消費される体力や気力の事なんか気にしてはいられない。もし、この消費でミュータントとの勝負に敗れたとしても、敵のミュータントがどんな奴なのかも解るし、それに逃げるだけの力はきっとあるだろうから死にはしない。今気にするべきなのは、このミュータントを逃がさない事。少なくとも自分がこの目で見るまでは。
グリフィンドール塔を出て、暗い廊下を走りながら呪文を唱えた。
「haytrumaneu;p,.ma...ejiajenr...:ajuneung,,,,jueneubaye.fferkuy...............[Mutant]」
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08.08.011 修正完了