「今日は諸君に大事なお知らせじゃ」
ダンブルドアの声が大広間に響くと生徒達は皆静まり返った。勿論、私達も。今日一日が何時もより少し長く感じられたのは、他でもない、この瞬間のせいだと思う。
「転入生が一人おっての。今から彼の組み分けと軽く自己紹介をしてもらおうと思うのじゃ」
教師陣が座っている所の直隣にある扉。そこに向かってダンブルドアが何か合図の様なものをすると、昨日とは違い、ホグワーツの制服を着たディアミスが出てきた。まだ寮が決まっていないからなのか、ネクタイはしていないけれど。やはり思った通り、ディアミスのあの表情はこんな状況でも緊張していない証拠だ。彼のハートは鋼鉄でできているに違いない。
「ディアミス・アルガです。今日からホグワーツの二年生になります」
周りの女の子の黄色い声が小さいながらも聞こえてきた。あ、そうだった。ディアミスもかなりモテたっけ。というか、七姫(セブンプリンセス)は全員モテた気がする。何しろ皆美形だ。あの顔でモテるな、という方が無理ある。
「一年生の・とは義兄妹みたいな関係です」
……(・v・?)
うん、ちょっと待て。
え?義兄妹っていう単語が聞こえた気がしたんだけど?
しかも皆私の事見てるんだけどな。特に年上のお姉様方。
そんな突き刺さるような視線を私にくださらなくても結構ですので。これ本当切実に。
「え?ディアミスっての友達じゃなかったの?本当はのお兄さん?」
「断じて違います。ディアの考えてる事は理解不能なの。
あの発言はさらっと右から左に流してくれると嬉しいです」
ジェームズの顔からしてよく解ってないと思う。けれど、そ、そっか…、と言ってそれ以上は聞いてはこなかった。
「グリフィンドール!」
組み分け帽子の声が、さっきのダンブルドア同様大広間中に響き渡った。ディアミスは拍手をするグリフィンドール生達のいるテーブルまで来て、宜しく、などと挨拶をしてくる人達に軽く挨拶を仕返しながら、開いていた私の前の席へと座った。
「やあ、ディアミス」
「昨日ぶり」
「昨日ぶりだね。自己紹介してなかったよね?僕はジェームズ・ポッター」
「よろしく、ジェームズ」
そういってジェームズとディアミスは握手を交わした。
「俺はシリウス・ブラック。って言っても、もう知ってるんだよな」
「まあ、から聞いてたからね」
「から?」
…まーた問題発言ー。
私言ってないよー。ディアにシリウスの事話してないよー。
確かに、ディアミスがシリウスの事を知っていたのはブラック家が有名だから、と言うのは宜しくない。そうなると上手い嘘を考えなければならない。けれどだからと言って何でもかんでも私に関連付けるのは止めてほしい。
「ダイアゴン横丁でシリウス・ブラックにに会ったって聞いた」
言 っ て な い !
レンには言ったけれど、ディアミスには一言も言ってはいない。さてはレン、話したな。まあ、これでシリウスの機嫌が損なわれないんだったら別にいいけども。
それに、絶対にシリウスはディアミスに対して良い印象を持ってないと思っていたけれど、そうではなかったらしい。これにはほっとした。
「まあ、兎に角よろしくシリウス」
「ああ」
ディアミスとシリウスも握手を交わした。
「ぼ、ボクはピーター・ペティグリュー…よろしくね、ディアミス」
「よろしく、ピーター」
私の目的を知っているからか、ディアミスはあっさりとピーターを受け入れた。普通なら、ああはいかないと思う。未来の世界であんなに酷い仕打ちをしているピーターを見てきたのだから。でも、きっとディアミスも直に気付く。この時代のピーターは未来の世界とは違うんだって事に。私がピーターを受け入れられたのは単に目的の為だけじゃない。彼が優しかったから。未来の世界とは心の持ち様が全く違っていたから。
「僕はリーマス・J・ルーピン。よろしくね」
「こちらこそ」
リーマスの様子については、昨日丘での反応で解ってた筈。ダンブルドアの言葉に微かに反応したリーマスをディアミスが見逃す筈がない。まだ狼人間だという事を皆に知られてはいないのだと解った筈。そして、同時に今気付いた事もある筈。"あの笑顔"’リーマスが作っている事に。私が昔使っていた、あの境界線の笑顔の存在に気付いた筈。
「私はリリー・エバンズよ。よろしくね、ディアミス」
「よろしく、リリー」
「ねえ、ディアミスはのお兄さんなの?」
奇跡的にも今日も悪戯仕掛け人となる四人と、達四人は固まって座っていた。
首を少し傾げながら聞いてくるリリーにディアミスは違う違う、と片手を顔の前で振りながら答えた。
「え?だったら、ディア、何であんな嘘吐いたのよ」
「ああ言えばと何時も一緒にいても関係を怪しまれないから。まあ別に俺は怪しまれてもいいけど」
「一言余計。ていうか何で何時も一緒にいるって決まってるの?」
「…の事好きだから」
何、今の間。幸いにも今の台詞は周りのお姉様方には聞こえてはいないようだ。頬杖をつきながら、にっこりと微笑んで言われた言葉をいつもの様に軽くあしらった。
「あー、はいはい。ありがとうございますー」
「ー、俺は何時も本気なんだけどなー」
「…、モテモテだね。でもディアミス、は渡さないよ…」
「そうそう、私達のお姫様は渡さないわよー」
横からベルとセルフィーナも話しに加わった。二人して何言ってるんだか。二人とも自己紹介をしてから、ジェームズ達と同じように握手をそれぞれ交わしている。
とりあえず明日からの生活、幸先はいいかもしれない。
Snow White
星に願いを
「お、来た来た」
宛がわれた部屋に入ると其処には既にルームメイトと思わしき男子生徒が一人。黒髪に琥珀色の瞳。ベッドの上で読んでいた雑誌から目を上げて入ってきた俺を見る。
「俺はアスル・アリファフ。今日からお前のルームメイトだぜ!」
「よろしく、アスル。もしかして、この部屋って俺等二人だけ?」
「ああ」
二人部屋、か。少し珍しいな。普通は四人いるもんだと思ってたけれど、二人部屋もあるのか。
「なあ、ディアミス」
「ん?」
「お前ってさ、本当にの義兄妹なのか?」
荷物を整理していた手を止めて、こっちを見てくるアスルの方に顔を上げる。
「どっちだと思う?」
「どっちって…お前さっき"と義兄妹だ"って言ってなかったか?」
「"義兄妹みたいなもの"。義兄妹かもしれないし、そうじゃないかもしれない」
そう言ってまた荷物の整理をする為に、顔をトランクに向けて手を動かす。前の方から何だそれ、と言いながら笑ってるアスルの声が聞こえてくる。
「んじゃ、お前がの義兄だったとして。ディアミスも、みたいに高等魔法できんのか?」
「…みたいに高等魔法?」
「ああ。あいつ入学したその日に俺達の目の前で"清めの魔法"を使ったんだぜ。んで、噂では一年生なのに武装解除呪文もできるらしい!」
「……」
癖ってのは恐ろしい。ついこの間までは普通に魔法を使ってたんだ。未来の世界でね。まあ、ついで使ってしまうのは解る。けど、武装解除呪文なんて普通"つい"で使うか?未来の世界でなら解る。色々危険な事があった。けどこの時代のしかもホグワーツ内で何か危険な事が起こるか?
「(武装解除は意図的として、清め呪文の方は自分が一年生だって事すっかり忘れてた可能性大だな…)」
「で、ディアミス。お前も使える?」
別に隠す必要もないので俺は荷物の整理をしながら顔を上げず使える、と返した。
、お前は何処まで隠し通せると思ってるんだ。全てを隠そうとしてもそれは絶対に無理だ。一年くらいならまだ解る。それくらいなら頑張れば出来る。けど、俺達は多分、少なくとも七年間はこの世界にいなきゃならないんだ。魔法云々の事は別に黙っていても何も支障はないと思う。高度な魔法が使える事が例え全校生徒に知れ渡ってもさほど問題はない。
けど、"姫"の事は違う。話すべきだったんだ、あの時に。あの丘の上で。、お前は知る事が危険に繋がるって言うけど、本当にそうか?俺には、早めに話しといた方が逆に安全に思える。早めに話して、早めに離れていってもらった方が自身が傷つかずに済む。
「(何の為に俺があの四人がいる事を解っていながら、俺達に関わる話をしたと思ってるんだか…)」
あの感じじゃ、リーマスは兎も角としても、他の人間とは結構なところまで関わってる。深く関わって最終的に傷つくのはだ。今のうちに離れておくのがベストだと思う。もう今の時点で警報は鳴り響いてるんだ、。あいつ等が自分から離れていかない、なんて保障は何処にもないんだ。まあ、その逆も言えるけど。
「(頼むから、リーマスを助けようとか思うなよ…)」
リーマスのあの様子からして、まだジェームズ達と心から和解はしてない筈。という事はまだ狼人間という事を気付かれてない筈だ。まあ、入学してから約二ヶ月。リーマスが城を抜け出したのは精々一、二回。それでは流石のジェームズ達も気付くわけがない。と、なれば彼等がリーマスの閉じた心を開くのはこれからだ。もしかしたら、もその仲間に加わるかもしれない。そうなったら、本気で後戻りは出来ない。頼むから、そんなに深く関わるな。
窓から見えたのは満天の星空と月。神になんて願わない。神は残酷だから。
「(…もし、神が全知全能だったなら、はあんなにも傷つかなかった)」
もしまた、君が傷つく事があるならば、その時は今度こそ俺が守ってみせる。
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08.08.09 修正完了