「痛む、ピーター?」
「う、ん…で、でもこのくらい平気だよ!」
マダム・ポンフリーに手当てをしてもらいながら、ピーターは心配そうに見ている四人に向かって笑顔を向けた。少し痛むようだが、何とか大丈夫なようだ。ベッドに座って手当てを受けているピーターを囲むように立っていた四人はピ−ターの元気そうな笑顔を見て安堵した。
幸いな事にマダムはピーターの怪我について何も聞いてこなかった。きっとこれが生徒間の間で起きた何かだという事を瞬時に察知したのだろう。聞かれたくはないだろうと思い聞かないに違いない。流石は校医。こういうところを見るとマダムは一流の校医なのではないかと思う。
「それにしても、。どうしてあそこまであの生徒の事知ってたの?」
リーマスの今更ながらの質問に、はどうやって答えようかと考えた。流石に在学中の生徒全員の事を何かの役にたつかもしれないと思い少しだが詳細を記憶してある、なんて事は言えない。
「ああ、えっと、それはね…」
と、その時。医務室の扉が開いてマクゴナガルが入ってきた。ツカツカと迷わずに達の方へと歩いてくる。
「ミス・。少しいいですか?」
「…ええ、構いませんけど」
何かあったの?と視線でマクゴナガルに問う。それに表情を崩さないままマクゴナガルが答えた。
「今しがた、スリザリンの生徒から報告を聞いたばかりです」
その言葉にジェームズ達の表情が曇った。怒られるのか。けれど何故だけが呼び出されるのかが解らなかった。だが四人の思う事と、そしてこれからとる行動も同じだった。
「それについて、いくつか話したい事があります。付いてきなさい」
「待って下さい!」
最初に行動に出たのは意外にもピーターだった。治療がまだ終わっていないため、ベッドの上で上半身だけをマクゴナガルの方へ向けてた。
「は…あの…ボクを助けてくれたんです…悪いのはボクなんです…だから、あの……」
マクゴナガルの威厳たっぷりの顔に怖気づきながらもしっかりとそう言った。その後にジェームズとシリウスも続いた。
「それにだけがやったわけじゃありません。僕達もやりました」
「それに悪いのはあっちだ」
「先生、叱るなら僕達も一緒に…」
三人の言葉を聞いたマクゴナガルは、最初こそ三人が何を言っているのか解らなかったが、直に彼等が何かを勘違いしている事に気付いた。そして表情こそ変えないものの、その声色に優しさの色を出してピーターに話しかけた。
「ぺティグリュー、怪我は大丈夫ですか?」
「あ…はい」
「それならばよろしい。いいですか?何を勘違いしているのかは知りませんが、私はミス・を叱るつもりなどありません」
今度はジェームズ達が面食らう番だった。叱らないと言うのであれば一体何をするんだ。四人の目がマクゴナガルにそう訴えかけていた。
「少し話を聞くだけです。ミス・。ついてきなさい」
「はい」
「あ、おい…」
素直にマクゴナガルの後をついて行くにシリウスが戸惑いの声をかけた。それを聞いたは振り返り笑顔で答えた。
「大丈夫。悪いようにはならないよ」
そして踵を返して医務室を先に出ていたマクゴナガルの後を追った。
「それで一体どうしたの、ミネルバ?」
マクゴナガルの自室まで移動してきた二人は机を挟んで座っていた。二人の前にはそれぞれ紅茶が。実を言うとも何故自分がマクゴナガルに呼ばれたのか解らないのだ。
「スリザリンの生徒が貴女が自分の個人情報を知りすぎていると不審を抱いていましたよ」
「…ソレハ大変」
目を泳がせ半笑いをしながら棒読みでそう言ったに対してマクゴナガルは溜息をついた。目の前の自分の後輩は明らかに今胸中でしまった、と呟いている事だろう。
「全く、入学の次の日に校長に言われたばかりでしょうに」
「あ、あははは…(まさかあれしきの事でミネルバにチクルとはっ。いい度胸ねドロホフ…!)」
内心ドロホフに悪態をつきながらも顔には乾いた笑みを貼り付けておく。
そう、確かに言われた。あの入学当日の次の日。つまりは宴会の席で清めの呪文を使った次の日の事。高度な魔法はある程度の月日が経つまでは人前で無闇に使わない事。そして、不審に思われる行動は極力避ける事。この二つをダンブルドアに約束させられた。勿論、それには素直に従った。自分的にも目立った行動をとって変に注目を浴びるのは極力避けたかった。
「それに一体何所から生徒の個人情報なんて…」
「それは…うん、まぁ、ちょっとね…」
情報源は勿論の事、レンだった。何かの役にたつかもしれない、と言ってに全校生徒の資料を送ってきたのは実はレンなのだ。確かに、未来を変える者として、知っておいた方が得な事もあるだろうとその資料を受け取り、全てを頭の中にインプットさせた。事実、未来で死喰い人になる人物達、あるいはなりそうな傾向の人達の名前と顔、そして学年と多少の身の回りの情報は欲しかった。先程のスリザリン生のリーダー格だったロドホフ。彼もまた未来で死喰い人になる一人だ。自分は神秘部で彼と一戦交えたのだから。
マクゴナガルに教えたくない訳ではないがレンの事を説明するとなると、自分の向こうのでの地位なども説明しなければならなくなってくる。そうすると自分が何者で、しかも自分の住む世界がどの様な場所なのかという事も説明しなければならないだろう。それを今やるとなると非常に面倒くさい。これはまたの機会にでも話せばいいだろう。
「企業秘密って事で」
「…まぁいいでしょう。今後は気をつけるように」
「はーい」
「それと…」
マクゴナガルの声のトーンが少し下がった。
「ルーピンの事なのですが…」
少し心配そうに自分を見るマクゴナガルには微笑んで返した。
「大丈夫。今のところ何も問題はないと思うよ。ジェームズ達とルームメイトになったのはリーマスにとって凄く良い結果になったと思う」
入学の次の日、忠告と共にはリーマスの監視も頼まれていた。監視、と言っても彼が上手く皆の中に溶け込めるか等と言った対人関係の事に対してだが。
「そうですか。それならばルーピンの事はポッター達に任せる事にしましょう」
「それが一番良い判断だと思うよ。ジェームズ達ならきっとリーマスの心を開いてくれる」
そして、あの笑顔も消してくれる。ジェームズ達ならリーマスの本当の笑顔を引き出してくれる。事実、最近はちょっとずつだがリーマスが本当の笑顔を見せている気がする。人任せは良くないが、彼等が一番こういう事に関しては適任なのだ。
「さあ、そろそろ夕食の時間ですね」
ガタン、とイスから立ち上がったマクゴナガルに続いても立ち上がった。
「そういえば、今更な事だけどミネルバ。ジェームズをシーカーにしたんだってね」
「ええ。貴方の推薦通り、見事な箒捌きでしたよ」
前に一度、シリウスとジェームズは今年は受けられないが、来年は必ずクイディッチのメンバー試験を受ける、と言っていた事をマクゴナガルに口を滑らせて言ってしまった事があった。その時に、あの二人の身体能力と箒捌きならば、絶対に良いプレイヤーになると太鼓判を押していたのだ。
二人が今年のクイディッチメンバーや優勝杯について等を話しながら廊下へ出るのと同時に、
pipipipipipi.....
のローブのポケットに入っている通信機が鳴った。
「この音は、貴女ですか?」
「うん、あっちからの連絡みたい。悪いんだけどミネルバ、先に大広間に行っててくれる?」
「解りました。遅刻しないように気をつけるのですよ」
「はーい」
の返事を聞いてマクゴナガルは部屋の鍵を閉め、大広間へと向かった。
Snow White
毒の始まり
近くの空き教室へと入ったは通信機に向かって話しかけた。
「レン、どうしたの?」
《この前の男――デイモスに関して色々解ったぜ》
「どうだった?」
《やっぱり居たぜ。あいつのに周りにもミュータントがな》
「やっぱり…」
ただでさえ今回の目的は達成できるか解らないというのに、その上ミュータントまでどうにかしなければならないとは。何とも骨折りな。
ミュータント。それは創造神に反逆を犯した神々。最も、その引き金を引いたのはその創造神自身なのだが。彼等の記憶を抹消するのも空白の姫の仕事の一つなのだ。元々彼等は、昔々に空白の姫が自然界の原則を守る為に創り出した者達だった。だが、創造神はそれを許さなかった。あくまで世界の秩序・均衡を守るのは、世界の調律者は姫だという考えを断固変えようとはしなかった。その結果、創造神は神々を抹殺しようとした。それを知った彼等も創造神に刃向った。が、力の差は歴然。創造神も、そして神々も失いたくなかった姫は彼等を人間の世界へと追放という形で逃がした。だが、彼等は姫が創造神側につき、自分達を追い出したと思い、姫をも憎んでしまった。
《しかも全員覚醒済みだ》
「うわー、最悪…」
輪廻転生。彼等はこの力を持っていた。
神々たちはその能力で何度も何度も転生を繰り返し続けている。
つまり、神々の生まれ変わりである者たち。それがミュータントなのだ。
ミュータントは前世の記憶を、つまり自分が神だったときの記憶を持って生まれてくる。その記憶は生まれたときからあったり、そのうち思い出したりさまざまだ。
その記憶に比例して神だったときに使えた能力も備わっている。身を守る力、攻撃する力等これもさまざま。そしてそれ等は空白の姫にしか有効ではなかった。彼等を創り出した姫にしか。
覚醒している、という事は記憶もあるし、能力も十分に扱える、という事。大人しく記憶を消させてはくれないだろう。
《一人目はあいつの曾祖母。名前はエリス》
「"争い"かー。何か攻撃力の高そうな人達がくっついてるな…」
《それが、それだけじゃないんだ。あいつの兄にはポボス。妻にハルモニア》
「"混乱"のポボスまで…。本気で攻撃力高そう…」
《ハルモニアは完璧なスリザリン主義者みたいだぜ。出身もスリザリンだ》
「ハルモニアは蛇に深く関連してたからなー」
一度にそんなに発見されたのか。しかも全員攻撃性の高い負の力を持った者達ではないか。戦闘になれば無傷でいられるか解らない状況だ。
《エリスはブラック婦人のメイド長だ。シリウスなら何か知ってるんじゃないか?》
「うーん……まぁ、それとなく聞いてはみるね…」
正直気は乗らないが聞かなければならないだろう。シリウスは自身の実家をこの上なく嫌っている。そんな彼に実家のメイド長の事を聞くなんて気乗りする訳がない。だが、ミュータントが絡んでくるとなると、これは空白の姫の仕事に関わってくる。早めに片付けてはおきたい仕事の一つだ。
《ああ。こっちでももう少し詳しい情報がないかどうか調べてみる》
「うん、ありがと」
さて、どうやって彼女の事を聞き出そうか。
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08.08.04 修正完了