「あ」
大広間へと足を踏み入れ、新入生が組み分けの儀式へと向かう途中、"彼女"を見つけた。たっぷりと深みがかった赤毛でアーモンド型の緑色の瞳の少女。緊張しているのか少し不安そうに隣の女子と話している。
リリー・エバンズ。
将来、ジェームズと結ばれてハリーの母親となる予定の人物、だと思う(本当にリリーかという確証はまだない)
「あいつと知り合いなのか?」
突然足を止めたの視線をシリウスが追い、リリーを見つけると視線はそのままに聞いた。それにはワンテンポ遅れてから、首を振り答える。
「…ううん…ただ、ちょっと可愛いなっと…」
《未来のジェームズの奥さん兼ハリーのお母さんのリリーを見つけて思わず足を止めてしまった》なんて事、言える訳ない。勿論、《あの子とは知り合いだ》などという直バレそうな嘘もご法度。これが妥当な言い訳だろう。
「は?」
「あー、ほら、あの子可愛くない?」
「そうか「!君もそう思うかい!?」
ジェームズがシリウスの言葉を遮りの肩を掴み興奮気味に詰め寄った。いきなり肩を掴まれ、まるで揺さぶるような勢いのジェームズに若干後退姿勢になりながらも何とか相槌を打つ。
「、君にはあの子の可愛さが分かるんだね!」
「は…?あー…う、ん?」
「そうか、そうだよね!君はなんて理解力のある女性なんだ!誰かさんとは大違いだね!」
その"誰かさん"が自分だと気付いたシリウスは顔を顰めた。
「おい、それどういう意味「あ!今こっち見た!今こっち見たよね!?」
「……」
こいつに人の話を聞くという機能は備わっていないのか、とでも言いたげな、なんとも不機嫌な顔でシリウスは頬を引き攣らせた。それからジェームズは会って、というよりも彼女の姿を見て数分もしていないのにも関わらずリリーの何処が良いだとか、何処に惹かれるかなどを延々と語り始めた。それをシリウスは横目で見て溜息を一つ。
「ったく。そんなに言う程いいのか?」
「シリウスは可愛いと思わないの?」
「別に、興味ない」
この"興味ない"は、《女の子に興味がない》なのか、それとも《リリー・エバンズに興味がない》なのか。後者の場合は大半の女子が手を上げて喜ぶ事だろう。だが前者の場合は果たしてどれくらいの女子が涙する事か。
そうこうしているうちにも、始まっていた組み分けの儀式は着々と進んでいた。
「エバンズ・リリー」
マクゴナガルが名前を呼び、リリーが少し緊張した面持ちで前へと出た。
「聞いた!?あの子の名前!リリー・エバンズだって!」
「そうみたいだね」
「あぁ、リリー…名前までもが可愛いよ…」
ジェームズのリリーを見つめる瞳はまるで恋をしてる乙女のようだ、ととシリウスは同時に思った。
そういえば未来のシリウスの話だと、ジェームズとリリーは最初の方は全くと言っていい程仲が良くなかった筈。リリーがジェームズを嫌っていたとか。一体この先ジェームズの恋はどうなるのだろう。
「グリフィンドール!」
帽子が高々とリリーの入る寮の名前を言った。リリーは嬉しそうに大きな拍手が沸き起こるグリフィンドールのテーブルへと小走りで向かう。それをジェームズは例の如く恋する乙女の様な視線で追いかけた。そして突然思い出したかの様にこっちを向きさっきとは打って変わって真剣な表情になって言った。
「、シリウス、二人とも絶対にグリフィンドールになってね」
「え?どういう意味?」
「エバンズがグリフィンドールになったんだ!勿論僕は愛の力でグリフィンドールになってみせる。でも僕は君達とも一緒の寮がいいわけさ。だから絶対にグリフィンドールになってくれよ」
「愛の力って…」
「重症だな…」
真顔で阿呆な発言をするジェームズを少しだけ哀れに思った瞬間だった。
その後も次々と新入生は組み分けをされていき、とうとうシリウスの番となった。
「ブラック・シリウス」
マクゴナガルのその声の後、大広間は一瞬の静寂の後一斉にざわめき始めた。大半の生徒がシリウスを見ようと机から身を乗り出していたり、残っていた新入生もきょろきょろと自分達の中にいるであろうシリウスを探していた。
ああ、きっとシリウスはこの目が嫌いなんだ。この珍しいものでも見る様な皆の目が。
案の定シリウスは顔をおもいっきり顰めていた。シリウスの気持ちは解るけれど、生徒達の気持ちも解らなくはない。きっと自分も他の生徒達と同じ立場になったら同じような行動をとるだろう。だからなのか、どう言葉を掛けていいのか解らない。それを、シリウスの逆隣に居たジェームズはいとも簡単にやってのけた。
「シリウス、先にグリフィンドールで待っててくれよ?」
一瞬面食らったような顔をしたシリウスだが、その顔は直に照れ臭そうな笑顔へと変わった。そうだ。別に飾り繕った言葉なんて彼には要らないんだ。
シリウスはさっきと打って変わって晴れ晴れとした表情で帽子を被った。他の生徒より大分長い時間があったが、帽子は高々と言った。
「グリフィンドール!」
そう、彼が望んでいるのは素の言葉。対等の立場にいる"友達"としての言葉が欲しいだけ。
「シリウス、また後でね」
「おう」
すれ違い様に声をかけるとニカっと嬉しそうに笑って返事を返してきた。やっぱり、グリフィンドールになれた。まあ、あれだけ強く望んでいれば当然の結果なのだけれど。
「嘘!?ブラック家がグリフィンドール!?」
「一体どうなってるんだ?」
「組み分け帽子は一体何を言っているのかしら…」
そんな周りのスリザリン生の言葉に見向きもしないでシリウスは拍手喝采のグリフィンドールの席へと嬉しそうに足早に向かっていく。それを見ながらジェームズに話を振る。
「良かった。これでシリウスと同じ寮になれるね」
「そうだね。もシリウスに続いてグリフィンドールに来てくれよ」
「当然。ジェームズこそグリフィンドール以外の寮にならないようにね」
「僕はエバンズへの愛の力があるから平気さ!」
「……」
今のジェームズは放っておいた方が一番良いだろう。
Snow White
王子様の強い願いを聞き届けるのは魔女の魔法
無事にジェームズの寮もグリフィンドールに決まり、遂にの番がきた。
「・」
マクゴナガルに他の生徒と同じ様に名前を呼ばれ、前に出ているスツールに腰掛けて帽子を被る。
ああ、そういえば自分はこうして組み分けの儀式をするのはこれで三度目なんだ。変わらなかった。この光景も、帽子が歌う事も、全てが変わっていない。
「ん?君は…」
「久しぶり、組み分け帽子さん」
「なるほど。聞いていた通りのようだな」
"聞いていた"、とは恐らくダンブルドアにだろう。この時代では自分は数十年前に一度組み分けの儀式を受けている事になる。この組み分け帽子は組み分けをした生徒の事を絶対に忘れはしない筈。ともなれば数十年前に組み分けを受けた生徒が今また組み分けをするのはおかしなな出来事。帽子が奇怪に思わないように校長が事前に訳を話してくれていたのだろう。
「フム、君は前回と同じ寮へ行くか?それとも他の寮へ?」
『君は勇気と、真っ直ぐな心と知恵、そしてどんな事をも達成させようという思いを持っている』
一度目の組み分けの時に私はこの帽子にこう言われている。要するに何処の寮へ行っても上手くやっていける、という事。それは嬉しい。そう言われるのは凄く嬉しい。だけど、違う気がするの。
勇気なんてない。
真っ直ぐな心なんてものもない。
知恵はあの人の為。
その思いは私が生きていくための武器。
あの頃はこう思ってた。自分はそんな出来た人間なんかじゃないんだって。今もそれは変わってないけど、でも皆のお陰で、仲間のお陰であの人からは解放されたから。自分の存在理由もちゃんと見出せたから。
「私はグリフォンドールを望むわ」
「フム、良かろう。では…」
『"どの寮がいい?"、って貴方が私の寮を決めるんじゃないんだね』
『意外だったかな?』
『ちょっとね。ねえ今思ったんだけど、これって思いの強さが試されるホグワーツでの一番最初の試験なんじゃないの?だって寮を決めるのは貴方じゃなくて、その人自身なんでしょ?貴方は一応はその人に一番あっていると思われる寮を教えてはいるけれど、そこに入るかどうか決めるのはその人次第なんじゃない?』
『…君は面白い事を言う。その考えは間違いではないだろう。よし、君はもう入りたい寮は心の中で決まっているな?』
『勿論』
『良かろう。では、』
「『グリフィンドール!』」
それが私が始めて組み分けを受けた時の話。そう、その人自身が強く望めば帽子はその思いに答える。だからシリウスはグリフィンドールへと行けたのだ。思いが強かったかったから。
帽子の高らかに寮を言う声が昔と重なって聞こえた。
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08.07.24 修正完了