先日、突如屯所に現れた女、。
未来の世界からやってきたという彼女。
初め副長から聞かされたときは、失礼ながら副長は何を仰っているのだと思った。
だが、当の本人に会って見せられる数々の未来の物。
髪を結う伸びる紐や、その場のものをそっくりそのまま記録するものなど。
昼間はああ言ったが、未来から来たことを信じていないわけではない。
寧ろここまで色々見せられ、話されれば信じる他ない。
「(信じたく、ないのか・・・)」
未来から人がやってくるなど、有り得ん話しだ。
それこそ、今見上げているあの月がここに落ちてくるのと同じくらい有り得ん。
「(が間者だという疑いはもう無くしていい筈なのだが・・・)」
自分の中の何かがそうさせない。
副長も半信半疑の今、自分が彼女を信じその結果新選組に多大な損害が出たら、と考えると彼女を信じたくなくなる。
信じたいが、その一歩が踏み出せない。
「・・・・・・総司か・・」
「あ、バレてたの?」
「気配も消さずに覗いていればな」
今しがた現れた人の気配に反応し、そちらを見ずに声をかけると、悪びれた様子もなくようひょうとした声が返ってきた。
タンタン、と足音をさせ暗闇から近付いてきた総司は、俺の隣に腰を下ろす。
「・・・・何か、用か?」
「んー、一杯やらないかっていうお誘い」
そう言って総司は酒瓶を掲げる。
酒、か。
「・・・・たまには、お前に付き合うのも悪くない」
俺はフッと笑って総司から徳利を受け取った。
自由に生きろ
一くんは忠実だ。土方さんに対しても、この新選組に関しても。
だからこそ、彼がちゃんを信じたくない気持ちを察した。
「一くんはさ、まだちゃんのこと信じられないの?」
「・・・・・・そういうあんたは容易く信用しすぎだ」
信用しすぎ?
ああ確かに、僕はあまり表に出していないかもね。
「そんなことないよ。もしあの子が新選組に・・・近藤さんに害を与える存在だって分かった時には躊躇わず斬る準備は出来てる。信用してるわけじゃない」
「そうは見えないが?」
「だってさ、もし間者だったとしても、こっちが明らかに『疑ってます』っていう雰囲気出してたら気なんか抜けなくて本性出してくれないじゃない」
「・・・・・・・」
勿論、この数日で彼女が長州などの間者だっていう疑念は大きく拭われていた。
けれど、彼女をここで重宝しようなんて考えはなく、『あの子は本当に未来から来て、からかうと反応が面白い。』そんな程度。
彼女にその気が無かったとしても、僕たちに害をもたらすようなら斬る。
でも・・・
「・・・・何となく、あの子は違うと思う」
「・・・?」
「僕たちに有害な存在じゃないと思うんだ。あくまで僕の勘だけど」
そもそも、あんなに未来の品だというものを見せられては、未来から来たということは信じるしかない。
だとすると、未来から来たあの子が長州や薩摩の人間と絡んで僕らを潰そうと考えている確率は低いんじゃないか?
「何事も疑ってかかるのはいいと思うけど、どれくらいかは分からないけどこれから一緒にここに住むんだし、そんなにずっと気を張ってると疲れちゃわない?」
「・・・・・・・」
一くんの気持ちも分かる。
信じたいけど・・・こんな事、信じたくないんだろう。
けど、なんとなくちゃんは僕たちには無害・・・とまではいかないけど、少なくとも意図的に新選組に害を為す子じゃないっていう僕の勘を彼にも解ってほしかった。
まあ仮にもちゃんは僕の小姓なんだし。そんな子が仲間から疑われてるなんて、あんまり良い気分じゃないからね。
「・・・・・・・・そうだな・・・」
黙って月の映る徳利を見つめていた一くんが呟いた。
「・・・・・・・今回は・・・総司、あんたの勘を少しばかり信じてやらんこともない」
ちゃんを信じたいけどその一歩が踏み出せない一くんに必要だったのは、少しの後押し。
信じたいと思わせたのは僕じゃなくて、当の本人。
この一くんにそう思わせられるなんて、やっぱり君は面白いよちゃん。
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(11.09.16)